Tuesday, August 4, 2020

機械学習で販売計画の精度はどこまで向上できるか、人の意志決定は不要なのか - @IT MONOist

サプライチェーンにおける業務改革を推進する中で、デジタルがもたらす効果や実現に向けて乗り越えなければならない課題、事例、推進上のポイントを紹介する本連載。第3回は、SCMにおけるDXの打ち手の1つとして、改善効果が高く成功体験を得やすい領域である「販売計画」における取り組みについて紹介する。

SCMにおけるDXの打ち手として改善効果が高い領域

 前回記事(連載第2回)は、サプライチェーンのデジタル化を阻む日本製造業の課題、サプライチェーンマネジメント(以下、SCM)における本質的DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何かを紹介した。変化対応力を強める、業務領域をつなぐプロセスこそDXとして手を打つべきであるが、業務領域をまたぐ取り組みの障壁は高く、一気に進めることが難しい。よって、アプローチを工夫し、ある領域から小さく始めて成功体験を作ることが、取り組みを波及させる糸口になる。SCMは広い業務領域を対象とするが、DXの打ち手の1つとして改善効果が高く成功体験を得やすい領域もある。その1つが「販売計画」である。

連載「製造業DXの鍵−デジタルサプライチェーン推進の勘所」バックナンバー

 第3回の今回は、販売計画へデジタル技術をどのように活用できるのか、事例とともに紹介する。

SCM需給プロセスにおける販売計画の位置付けと精度向上への期待

 「サプライチェーンは拠点と拠点をモノでつなぐプロセスの連鎖であり、SCMは需要と供給のギャップのコントロールを目的とした、企業、組織、人をつなぐ情報と意思決定の連鎖のプロセスである」ということを連載第2回でお伝えした。SCM需給プロセスにおける意思決定には、対象となる時間軸によって内容が異なるが、例として以下が挙げられる。

  • 販売数の決定
  • 大口案件に対する生産開始タイミング判断
  • 供給逼迫(ひっぱく)時の割り当て判断
  • 生産・出荷遅延時の海上輸送/航空輸送切り替え判断
  • 終売時の生産・販売数決定
  • 設備投資、移管判断
  • 長納期部品手配判断

 需要側、供給側、双方の意思決定が必要となるが、特に需要側の意思決定の誤りは「ブルウィップ効果」を生み出す。ブルウィップ効果とは、需要(販売計画起点)のわずかな変動が、サプライチェーン上の上流に増幅されて伝わる現象のことであり、過剰在庫や欠品を発生させる要因となる。

 ブルウィップ効果を低減するには、2つの施策が必要である(図1)。

図1 図1 ブルウィップ効果を低減させる2つの施策(クリックで拡大)

 1つ目は、販売計画起点から工場、サプライヤーへの要求の連鎖におけるブレを少なくすることである。そのためには、計画連鎖における誤差、変動発生要因となる業務プロセス、サイクルを同期し、販売計画に基づき一気通貫で計画(デマンドドリブン計画)を行う必要がある。また、内部的で不要な意思入れを排除することも重要である。ここでの“内部的で不要な意思入れ”とは、計画的なものではなく、不安感や不信感からくる、少しだけ「多めに、少なめに」というような調整を指す。

 2つ目は、販売計画精度の向上である。販売計画はサプライチェーン全体計画の起点となるため、一番効果があるが最も難しい取り組みでもある。一般的に販売計画は、SKU(Stock Keeping Unit)や週/日といった細かい粒度で計画するより、カテゴリーや年/月といった粗い粒度で計画する方が精度は高い。また、長期と比べて情報量が多くなる短期の計画の方が精度は高くなる。SCMにおいては、最終的に生産につなげるため、詳細粒度での計画が必要であり、長期から短期にかけて段階的に計画を詳細化する。

 これまでの取り組みの多くは、1つ目の「販売計画起点から工場、サプライヤーへの要求の連鎖におけるブレを少なくすること」が重点的に行われてきているが、近年はデジタル技術を活用した販売計画精度向上への期待が高まってきている。

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