ゲームジャンルのひとつとして根強い人気を持つ「ローグライクゲーム」の歴史を、海外メディアのArs Technicaがまとめています。ローグライクゲームについて、Ars Technicaは「嫌悪感を覚えるようなアイデアとして、極端なランダム性やアスキーアート、Permadeath(恒久的な死)、極端な複雑さなどのアイデアが実装されている」としています。
ASCII art + permadeath: The history of roguelike games | Ars Technica
https://arstechnica.com/gaming/2020/03/ascii-art-permadeath-the-history-of-roguelike-games/
ローグライクゲームは、ランダム生成されるダンジョンを探索する、ストーリーがほとんどもしくはまったく存在しないようなゲームを指します。また、一部ではローグライクゲームの定義をより狭い範囲で特定しようという動きがあり、2008年に開催された国際ローグライクゲーム開発会議の中では、「恒久的な死」要素を持つべきと定義されました。これはつまり、キャラクターが1度死ねば永久にゲームオーバーになってしまうということを意味します。他にも、ローグライクゲームでは「ランダムもしくはプロシージャレベルでのダンジョン生成」「(比較的速いペースで進む)ターンベースの動き」「複雑なキャラクター・オブジェクト・ワールド間の相互作用」「有限のリソースを管理する必要性」「プレイヤーVSモンスター」といった要素が求められるとのこと。
ローグライクゲームの原型となったのは、1980年にリリースされた「ローグ」ですが、このローグに大きな影響を与えたとされているのが1974年に登場したテーブルトークRPGの「ダンジョンズ&ドラゴンズ」と、1975年に登場した最初期のコンピューターRPGである「pedit5」です。
現存する最古のコンピューターRPGとも呼ばれる「pedit5」は、1974年に登場したダンジョンズ&ドラゴンズをベースとしたゲームで、プレイヤーは俯瞰視点からキャラクターを操作し、モンスターを倒しながら40~50の部屋で構成された1階層のダンジョンを探索します。ダンジョンズ&ドラゴンズの場合、ダンジョンが複数の階層で構成されており、床に隠されたトラップやダンジョンの最後に待ち構えているボスといった要素が存在しますが、pedit5ではこれらの要素が省かれています。pedit5はモンスターに敗北すればそのままゲームオーバーとなるので、「恒久的な死」要素を含んだゲームとなっています。
PEDIT5 (1975) on PLATO System - Gameplay - YouTube
他にも、1977年に登場した「コロッサル・ケーブ・アドベンチャー」も、「恒久的な死」要素を含んだゲームです。コロッサル・ケーブ・アドベンチャーは「恒久的な死」要素以外はローグライクゲームの要素を持っていないそうですが、「隅々まで危険に満ちた地下洞窟の中を巡る冒険」や「死に至るまでのユーモラスな過程」「問題に対する創造的な解決策を求める点」など、多くの個性的な要素を含んでいたとのこと。ただし、ダンジョンは完全に固定で、冒険の度にランダム生成されるわけではないので、構成を一度理解してしまえば簡単にクリアできてしまうという欠点があります。
Colossal Cave Adventure play-through - YouTube
1978年にリリースされた「Beneath Apple Manor」は、「ランダムに生成される最大10階層のダンジョン」「テキストとグラフィックでレンダリングされるゲーム画面」「カスタム可能な難易度」「モンスターとの戦闘」といったローグライクゲームに求められる要素の多くを含んでいます。ただし、Beneath Apple Manorは1983年にIBM PCおよびAtariのゲーム機に移植されるまでApple IIでしかプレイできなかったため、大々的に流行することはなかったとのこと。
Beneath Apple Manor for the Apple II - YouTube
そして1980年に、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の学生だったグレン・ウィフマン氏とマイケル・トイ氏が協力し、コロッサル・ケーブ・アドベンチャーに「ランダム生成ダンジョン」や「モンスター・アイテム」といった要素を加えたローグを作成しました。
2人はcursesと呼ばれるUNIX系システム向けのプログラミングライブラリを用い、最大9部屋で構成される階層を複数つなげたダンジョンを作成。ダンジョンはプレイするたびにランダムで部屋・武器・オブジェクトの配置が変わります。ローグでは大文字のアルファベット1文字でモンスター(26種類)を表し、プレイヤーの操作するキャラクターは「@」で表現されました。なお、プレイヤーはモンスターより速くも遅くも移動できず、テキストを読んだりトラップを探したりアイテムを使用したりするたびにターンが進行しました。武器を振る・鎧を装着する・武器を投げる・移動といったアクションがキーボードに割り当てられており、その難しさから経験豊富やゲーマーでも簡単に死に至ったそうです。
ウィフマン氏とトイ氏は作成したローグをカリフォルニア大学のすべてのキャンパスで配布。1982年にカリフォルニア大学バークレー校に移ったのちには新しい開発者のケン・アーノルド氏を加え、ローグに改良を加えることでさらなる人気を集めることに成功しています。1984年にはBSDのUnixバージョン4.2に正式にローグが追加されたため、世界中の大学や研究機関のコンピューターでローグがプレイできるようになり、さらなる人気を博すこととなったそうです。
Rogue the Adventure Game: The First Rogue(like) from 1980 - YouTube
「ローグライクゲーム」という名称の通り、同ジャンルは「ローグのようなゲーム」から始まっています。1980~1982年にかけて、ローグをリメイクするための試みとしてスタートしたのがJay Fenlason氏が開発したRPGの「Hack」です。Fenlason氏は自身がプレイしていたローグをプレイできなくなってしまったため、ローグを再びプレイできるようにするため、高校の同級生と共に簡単なクローンゲームを作成します。
このクローンゲームに「精巧なダンジョン生成アルゴリズム」「約2倍のモンスター数」「より複雑なキャラクター・アイテム・モンスターの相互作用」といった要素を加えることで、全く別のゲーム「Hack」としてクローンゲームを生まれ変わらせています。高校生の遊びの一環として作成されたHackは、生みの親であるFenlason氏が1982年にUSENIXにデータを送信。ソースファイルの先頭には「プログラムの使用・変更・再配布の許可」が明記されていたそうです。
Fenlason氏がUSENIXにHackのデータを送信してから2年が経過した1984年の12月、オランダの数学者でコンピュータープログラマーでもあるAndries Brouwer氏が、国立数学情報科学研究所のアーカイブ上でHackのデータを発見します。実際にHackをプレイしたBrouwer氏は、すぐにプログラミングを始め、Hackの新しいバージョンを4つも作成。国立数学情報科学研究所の同僚などからフィードバックを受け、オリジナル版のHackを改良していきます。
Brouwer氏が加えた追加要素は、「頭と尾の間を攻撃るする2つに分かれるワーム」「プレイヤーと一緒に戦うペット」「より多くのモンスター」「フォーチュンクッキー」「過去に訪れたダンジョンの階層に戻るための経路」「ショップ」「ジョブ」などさまざま。
Fenlason氏のHackと同じように、ローグにインスパイアされたローグライクゲームの始まりとも呼べるゲームが「Moria」です。同ゲームはJ・R・R・トールキンによる長編小説「指輪物語」風にローグをアレンジしたもので、開発者はオクラホマ大学でコンピューターサイエンス関連の研究室で働いていたRobert Alan Koeneke氏。
Moriaはダンジョンの階層をローグの26階層から約2倍の50階層にまで拡張し、ダンジョンの各階層を9×9個の部屋で構成されるものから、より自由なダンジョンを作れるように制限をなくすなどしてアップグレード。ダンジョンの階層ごとに異なるスピードで動き回るモンスターを追加することで、ローグよりもモンスターとの戦闘に戦術的な要素が求められるように改良しています。
Moria gameplay (PC Game, 1992) - YouTube
ローグがリリースされたのちにHackやMoriaといったローグライクゲームが誕生しますが、2つのローグライクゲームは比較的すぐに開発が打ち切られます。しかし、開発が打ち切られたからといってHackやMoriaといったローグライクゲームの人気がなくなったというわけではありません。
1987年7月には「NetHack」というローグライクゲームが誕生。新しい武器やジョブ、お城や特別な階層などが追加されてはいるものの、基本的には「Hackを拡張したゲーム」の域を出ていないとArs Technica。ただし、NetHackコミュニティからは、「YASD」(もう一つの愚かな死)という単語が生まれています。
Let's Play NetHack! Part 1: A Tourist Enters the Dungeon - YouTube
他にも、1986年には「Larn」や……
Larn gameplay (PC Game, 1986) - YouTube
1987年にはフィンランド産のローグライクゲーム「SpurguX」が登場。これらはHackとMoriaという2つのローグライクゲームの要素を引き継いでいます。
その後も、1987年以降に誕生したとされるMoriaをベースとした「Umoria」や……
Umoria (Acorn Archimedes game 198?) - YouTube
1991年に運営開始となった「Angband」など、さまざまなローグライクゲームが誕生します。
Let's Play Angband (P1) - YouTube
これらの他にも、1987年に登場した「The Dungeon Revealed」や、1988年の「Omega」、1992年の「UnReal World」、1993年の「Ragnarok」といった、王道から少し外れたローグライクゲームもあります。
ローグやその直系のローグライクゲームは、どれもアスキーアートでゲームの世界を表現することにこだわっていました。しかし、一部の開発者は別ジャンルなどから新しいインスピレーションを取り入れており、例えば1988年にリリースされた「Scarab of Ra」は、ローグに第一人称視点の迷路ゲームである「Maze War」を組み合わせたかのような作品になっています。
Let's Play Scarab of Ra - YouTube
MS-DOSでゲームをプレイしてきた人にとっての第一人称視点でプレイするローグライクゲームの元祖は、1988年にリリースされた「Moraff's Revenge」でした。第一人称視点でモンスターやダンジョンが描かれる点以外はごく単純なローグライクゲームだそうです。
Moraff's Revenge (DOS) - Dungeon Crawling in MS-DOS - Saturday Afternoon Gaming - YouTube
1993年に生まれた「Dungeon Hack」は、商業向けに開発された第一人称視点で冒険が繰り広げられるローグライクゲーム。トラップの頻度や食料の入手可能性、モンスターの難易度などをカスタムすることが可能で、オプションで「恒久的な死」要素を追加することもできます。
Dungeon Hack (PC/DOS) "Demo" 1993, SSi, DreamForge - YouTube
ローグが日本へやってきたのは1986年頃で、日本電気(NEC)が販売したPCのPC-8800シリーズを介して普及することとなりました。
Ars Technicaは「私が見つけることができた最初の日本製ローグライクゲーム」として、1990年にメガドライブ向けにリリースされた「死の迷宮」が挙げられています。なお、同じ1990年に発売された「ドラゴンクリスタル ツラニの迷宮」については、「『恒久的な死』要素が欠けている」という点がローグライクゲームとして不適切とArs Technicaは指摘しています。
死の迷宮(メガCD・1994年)OP&ED - YouTube
Ars Technicaは死の迷宮について、「典型的なJRPGスタイルのグラフィックであるにもかかわらず、ローグによく似たゲームとなっています。ランダム化されたダンジョンや、最初に使用するまで効果側から内アイテム、呪い、食べ物など」と記しています。しかし、死の迷宮はほとんどのローグライクゲームとは異なり「斜めの移動」が不可能で、縦横の4方向にしか移動・攻撃できないという欠陥があったそうです。
さらに、チュンソフトは1993年にドラゴンクエストシリーズの外伝的作品として、ローグライクゲームの「トルネコの大冒険 不思議のダンジョン」をリリース。アイデアとしてはドラゴンクエストの要素をローグライクゲームに持ち込むというものでした。この取り組みは日本で大々的な成功を収めており、「チョコボの不思議なダンジョン」「ポケモン不思議のダンジョン」「風来のシレン」など、さまざまなローグライクゲームを生み出してきた不思議のダンジョンシリーズにつながっていきます。
その後、少しずつローグライクゲームの要素が他のゲームジャンルにも追加されるようになっていきます。特に、1990年代になってからはローグライクゲーム的なデザインが商用ゲームの中でも増えていったとのこと。1991年にメガドライブ向けにリリースされた「トージャム&アール」は、「カラフルな見た目と多くの巧妙なデザインの背後にローグライクゲームとしてのルーツを巧みに偽装した最初のゲーム」とArs Technicaは記しています。
1996年に誕生した「ディアブロ」はローグライクゲームをメインストリームに引き上げる大きな手助けとなったと評しています。ただし、伝統的なローグライクゲームのような「深みや複雑さはない」とも指摘。
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さらに、2002年に登場した「DRL」は、人気FPSのDOOMとローグライクゲームを掛け合わせたというもの。DRLではDOOMのように遠距離攻撃を可能にすることで、本来はローグライクゲームとは正反対の位置に存在するFPSを同ジャンルに引き込んでいます。
DoomRL - (Doom the Roguelike) - YouTube
2013年に登場した「Desktop Dungeons」や2014年の「Road Not Taken」は、ローグライクゲームの汎用性をさらに示すことに成功したタイトルで、ローグライクゲームとしての要素をパズルゲームと組み合わせています。他にも、2015年の「Hand of Fate」はローグライクゲームとカードゲーム・アクションRPGの要素を組み合わせたものです。他にも、明らかにローグライクゲームとは言い難いものの、ローグライクゲームの要素を色濃く受け継ぐ「Spelunky」のようなゲームも存在します。
さまざまな進化を遂げながら、他のジャンルにも大きな影響を及ぼしてきたローグライクゲームですが、その始まりが「ローグというゲームをゲーマーたちが独自にローカライズした」ことであったと考えれば、ローグライクゲーム要素がさまざまなジャンルに波及し進化していく様は「適切な進化のように思える」とArs Technicaは記しています。
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