Monday, December 6, 2021

ドイツ新政権の連立協定にみるエネルギー政策・気候変動対策方針 | 連載コラム - 自然エネルギー財団

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 2021年9月末のドイツ連邦議会選挙では、社会民主党(SPD)が第一党となった。次期政権では、社会民主党・緑の党・自由民主党(FDP)による3党連立政権が誕生する。今回は、3党連立協定の本文から、新政権のエネルギー政策・気候変動対策方針を読み解く1

 ドイツ新政権の連立協定では、脱石炭完了時期を2030年に前倒す方針や、自然エネルギーで総電力需要の8割を供給するなど、メルケル政権よりも野心的な目標を掲げている。加えて、連邦経済・気候保護省を新設することで、省庁改革にも取り組む。新政権では、省庁の垣根を越えた「横断的な」気候変動対策が特徴的である。新たに「気候チェック」の仕組みを導入することで、各省庁の法案起草の際に気候変動に配慮する内容が求められることになる。新たなポストである通称「スーパー大臣」と呼ばれる連邦経済・気候保護大臣には、緑の党共同代表のロベルト・ハーベック氏が就任予定である。新大臣は、自然エネルギー、電力部門、エネルギーネットワーク、連邦気候保護法を担当する。

 ここで、一旦、連邦議会選挙後から連立協定成立までの流れを振り返りたい。選挙から約3週間後の10月15日には、はやくも、3党連立にむけた大枠を示す連立予備交渉合意書が発表された。連立協定成立までの交渉では、社会民主党の幹事長が、気候変動対策が「最も重要なポイント」になると述べていた。その後、連立交渉は順調に進み、11月24日には178ページに及ぶ連立協定が成立した。連立協定は、まずデジタル化を論じる章からはじまり、続けて気候保護の章を設けている。

 以下に、連立協定本文から、自然エネルギー・石炭・原発に関する主な数値目標・方針と、気候変動対策方針を紹介したい2

自然エネルギー
・ 2030年に、年間総電力需要680〜750TWhのうち80%を自然エネルギーで供給する。それに応じて、電力系統の拡大を加速する。
・ 国土の2%を陸上風力発電に利用する。
・ 洋上風力発電の容量を大幅に拡大し、少なくとも2030年に30GW、2035年に40GW、2045年に70GWを目指す。
・  2030年までに、太陽光発電容量をおよそ200GWまで拡大させる。
・ 新築事業用建築物への太陽光発電設備の設置義務化、新築住宅への設置も原則とする。
・ 2025年1月1日までに新しく設置される全ての暖房システムは、自然エネルギーによる運用比率65%を目指す。
・ 社会的公平性のため、2023年1月には電気料金を介した再エネ賦課金を廃止する3

石炭
・ 理想的には2030年に脱石炭完了を前倒す。
・ 脱石炭にむけた過渡期には、自然エネルギーの大規模な拡大と最新型ガス火力発電所の建設が必要である(H2-ready)。
・ 脱石炭の影響を被る地域に対する石炭地域構造強化法の施策を前倒し・加速し、調整手当などの労働政策上の措置も調整する。
・ 石炭火力発電の解体と土地の復旧のための財団・組織の設立を検討する。

原発
・ ドイツの脱原発を固持する。

気候変動対策
・ ドイツを「1.5度」の軌道へと導くことを主要課題とする。
・ 遅くとも2045年までに気候中立を達成する。
・ 2022年に連邦気候保護法を再度改正し、同年末までに必要な法整備をして新たな気候保護緊急プログラムを導入する。
・ 連邦経済・気候保護省を新設し、緑の党から連邦経済・気候保護大臣を設ける。
・ 気候チェック(Klimacheck)を行い、各省庁が起草する法案について気候への影響や国の気候保護目標との整合性を検証することで、気候保護を横断的な課題とする。

その他
・ 2030年に、少なくとも1,500万台の電気乗用車(EV)を普及させる。
・ 水素経済・インフラの整備を加速化し、2030年に10GW程度の電解容量を実現する。

 

表1 メルケル政権の法制化目標と新政権連立協定の目標の比較
出典:連邦気候保護法(KSG)、原子力法(AtG)、石炭発電廃止法(KVBG)、再生可能エネルギー法(EEG2021)および連立協定を基に筆者作成


 さて、ドイツの新政権は、実際にどれほどの速度でどの政策を実行に移していくのだろうか。新政権発足後、連立協定で掲げた野心的な目標の迅速な法制化が期待される。
 

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