米国のバイデン政権の目玉政策の一つである総額1兆ドル(約114兆円)規模のインフラ投資法が11月15日に成立した。米国の老朽化した高速道路や橋などを再建するのが一番の目的だ。
しかし、バイデン政権にはもう一つの狙いがある。高速道路建設によって黒人社会を差別した暗い歴史に光を当て、その償いをすることも目指しているのだ。
「溝」と呼ばれる高速道路
東部メリーランド州の最大都市ボルティモア。古い港町で、大リーグ・オリオールズの本拠地でもある。市の人口約58万人のうち約6割が黒人だ。町の中心であるダウンタウンから西側は、ウエスト・ボルティモアと言われる住宅街が広がる地域。居住者は黒人ばかりだ。
住宅街を分断するように地域の真ん中を高速道路(ルート40)が走っている。地面を掘り下げて建設されたため、地元では「ザ・ディッチ(溝)」と呼ばれることもある。道路は片側3車線で、中央には幅の広い分離帯も設けられ、かなりの道幅だ。
ボルティモアの西側の郊外から、市の中心部に抜ける高速道路計画の建設が始まったのは1975年。建設された区画には、住宅や店があった。ウエスト・ボルティモアで生まれ育ち、建設当時の様子を知るワケイン・ニュートンさん(49年生まれ)は「家族で住むのに適した、とてもいい場所だった。家のほか、商店やナイトクラブ、バー、理髪店なんかがあったが、みんな壊された」と振り返る。
地元メディアによると、この道路建設のため住宅971戸、商店など62店舗が壊され、約1500人が立ち退きを強いられた。ニュートンさんは「他の地域の人たちがダウンタウンに通うため、何十年も住んでいた家やコミュニティーが破壊され、それが町の『発展』だって?」と悔しそうに語った。
この高速道路計画は、さらに数奇な運命をたどった。別の高速道路に接続するはずだったのだが、環境への影響などから反対運動が起きて、途中で建設が中止されてしまったのだ。そのため、現在も残る高速道路は約2・2キロしかない。高速道路に乗るとすぐに反対の端に到着し、再び一般道に出てしまう。このため、「ハイウエー・トゥー・ノーウェア(どこにもいかない高速道路)」とやゆされてきた。
計画を途中で中止に追い込んだ方の反対運動は、白人が住む郊外の地域で起きたものだった。ウエスト・ボルティモアでも建設計画に激しい反対運動が起きたが聞き入れられなかった。
現在のウエスト・ボルティモアでは、高速道路によって分断された南北の両側に廃虚となった住宅が建ち並ぶ。ベニヤ板で窓を塞がれた家が多く、空き地も目につく。人通りもまばらで、かつての活気あるコミュニティーの姿は想像しにくい。
狙いは「スラム街の撤…
からの記事と詳細 ( 高速道路計画に埋め込まれた人種差別への償いは可能か | 潮流・深層 | 古本陽荘 - 毎日新聞 )
https://ift.tt/3IuVCDR
0 Comments:
Post a Comment