Monday, May 25, 2020

水道料金の減免相次ぐ。家計はいくら助かるの?電気やガスはなぜ減免しないの?(橋本淳司) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

水道料金の減免で家計はいくら助かるのか?

 水道料金を減免する自治体が増えている。東京新聞記事「<新型コロナ>手洗い、うがいで使用量増えているのに…水道料金値上げ?」によると125の自治体(5月19日現在)が減免を決めたという。その後もいくつかの自治体が減免を発表しており、この数は増えそうだ。

 だが、日本の水道事業者数は1346(2019年度末)だから、現時点では全体の約9%が減免を実施するということであり、多くの人は減免の恩恵に与れない。反対に水道料金の値上げを発表する自治体もあり、市民のなかには「不平等」を訴える声も少なくない。

 次に多く聞くのが「減免額はどのくらいなのか? 家計はいくら助かるのか?」という声だ。

 それには住んでいる自治体の水道料金を、水道局のWEBサイトなどで確認する必要がある。水道料金は自治体によって異なる。水源からの距離、原水の水質、水道の布設時期などにより、水道事業にかかる経費が異なるからだ。

 冒頭の図で示したように、水道料金には8倍の開きがある。標準世帯が1か月に使う20立法メートル当たりの水道料金は、全国で最も安い兵庫県赤穂市が853円に対し、最も高い北海道夕張市は6841円である。ちなみに赤穂市は水道料金の減免を決めている。一般料金を適用する家庭や事業者約2万2000が対象で、使用量にかかわらず7~10月請求分を無料にする。

 そのほかの自治体も以下のように料金はさまざま。

水道料金別の事業体数(日本水道協会資料よりグラフ作成)
水道料金別の事業体数(日本水道協会資料よりグラフ作成)

 20立法メートル当たりの水道料金のボリュームゾーンは2501円から3000円であるが、安い自治体、高い自治体がある。

 なぜ、このような差が生じるのか。

 水道事業は原則、市町村が独立採算で運営している。

 料金の算出方法については、下の図のような分数式をイメージしてほしい。

水道料金の決まり方の概要(分子の図は総務省資料より)
水道料金の決まり方の概要(分子の図は総務省資料より)

 分子の部分には、施設・設備費(ダム、浄水施設、水道管などの設置、維持費用)、運営費(職員給与、支払利息、減価償却費、動力費や光熱費)、受水費(ダムや近隣の浄水施設からの水供給費用)などのコストがくる。もともとの原水がきれいで豊富かどうか、どんな浄水方法か、水道管の距離はどれくらいかなどによってコストは変わるが、事業を維持・運営するための必要最低限の費用として計上されている。

 それを分母の部分の給水人口で割って計算する。家庭での利用のほか、病院、ホテル、飲食店などでの利用も含まれる。分子のコストが大きく、分母の給水人口が少ない自治体の水道料金は高い。分子のコストが小さく、分母の給水人口が多い自治体の水道料金は安い。

従量分も減免で使い放題にならないか

 一口に減免といっても、基本料金だけ減免する自治体と、従量分(基本料金分を超えて使用した分)まで減免する自治体がある。

 基本料金を無料にする自治体は、芦屋市、大阪市、堺市、名古屋市、奈良市、四日市市、宮崎市、鹿児島市など。基本料金、従量分とも無料にする自治体は、熱海市、小野市、加西市、湖南市、新発田市など。

 水道料金は、使用量が増えると単価が高くなる累進制を採用している。最大使用量に応じた施設を建設しているので、費用負担もそれに応じたものになっている。

 また、こうすることにより大量の使用にブレーキをかけ、限りある水資源を節約する効果も期待している。

 従量分まで無料になれば使用者としてはうれしい。ただでさえ夏になると水使用量は増える。新型コロナウイルスの感染拡大予防のため手洗いも頻繁に行う必要がある。大量に水を使用する事業者にとっては大きな助けになるだろう。

 その一方で、どれだけ使っても無料となると、水の使いすぎ、水道経営の悪化が危惧される。

なぜ水道料金は減免されるのに、ガスや電気は減免されないのか?

 水道料金の減免が実施される一方で、同じ公益事業であるガスや電気などの減免の動きはない。この差はどこにあるのか。

水道料金、電気料金、ガス料金の推移(総務省資料より著者が作成)
水道料金、電気料金、ガス料金の推移(総務省資料より著者が作成)

 ガスや電気などはサービスの対価としての料金が明らかになっている。水道についても前述のように地域に応じたコストから料金が算出されている。だが、そうした意識がどこまで共有できているのか疑問である。また、どちらも事業体なのだが、水道に限っては、ときに行政と経営の垣根が曖昧になる。

 水道料金は、事業の適正な原価を償う金額になっており、地方公営企業法では「健全な運営を確保することができるものでなければならない」と定められている。

 水道料金の減免は、首長の「鶴の一声」で簡単に実施できるのだが、減免することで今後の水道事業にどのような影響が出るのかを、まずは理解すべきだろう。

料金の減免分はどこから捻出されるのか?

 料金の減免の財源は何か。減免を実施する自治体の発表では、水道事業の黒字分を料金の減額に回すケースと、一般会計からの繰り入れを行うケースがある。行政の経済政策と公営企業の経営を分けて考えるなら、一般会計からの繰り入れが妥当だ。

 水道事業の黒字分とは本来、設備の更新に使う資金だ。

 もう一度、水道料金がどう決まるかという分数式を思い出して欲しい。

 老朽化した施設や管路を更新する費用、水源の水質悪化に伴う高度な浄水処理設備の導入などによって分子の部分は増えている。その一方で、水使用量の減少、人口減少によって分母の部分は減っている。

 あなたの住む自治体の「水道ビジョン」「水道経営計画」などをWEBサイトで確認してほしい(「○○市」「水道ビジョン」と検索すれば出てくる)。

 今回、水道料金の減免を決めた自治体の「水道ビジョン」「水道経営計画」を読むと苦しい現状が報告されている。「人口減少による料金収入の低下」「老朽化した施設の更新がまったなしであること」「水道料金の値上げの検討の必要性」などの言葉が並ぶ。長期的に経営計画を見直している水道事業も多くあり、今回の首長の決定が、水道事業の持続を揺るがすケースもあるだろう。

 資金不足は水道事業に重くのしかかる。設備の更新はいま以上に遅れ、水道はますますボロボロになっていく。新型コロナウイルスによる感染性拡大に水道水による手洗いは大いに役立ったと考える。その水道を今後もしっかり守っていくことが大事である。

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