Tuesday, May 26, 2020

学校再開が子どもを追い詰める危険性 カリキュラム優先で「地獄の夏」にしないため、大人が気をつけたいこと - 東京すくすく

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、約3カ月に及んだ休校措置が終わり、学校の再開が見えてきました。ようやく、とホッとする一方で、生活がまた変化することに不安を感じている家庭もあるのではないでしょうか。小児科医で「チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)」所長の榊原洋一さんは「子どもには大人にはない柔軟性がある。信じて、温かい目で見守って」とアドバイスします。榊原さんに今、親が気を付けるべきことを聞きました。

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「CHILD RESEARCH NET」所長の榊原洋一さん

―学校再開となると、生活リズムの立て直しや、低下した体力をどう取り戻すかが心配になります。

 だらけがちになった生活を元のペースに戻すことを焦らず、少し時間がかかるととらえてほしいと思います。これだけ長い休みだったのですから、子どもたちもすぐには適応できないこともあります。特に小学校低学年の子は、また入学時くらい手が掛かることもあるかもしれません。休校や外出自粛の中、例えばゲーム時間が長くても少し大目に見ていてあげたというのであれば、その姿勢をもう少し続けてほしいなと思います。

―子どもが怠けているのを見ると、「このままだったらどうしよう」「後々心配」と思ってしまいます。

 子どもはだれるのもあっという間ですが、学校に行くという環境になってキッチリしなくてはならなくなれば、徐々にそれに応じていくものです。大人と子どもとで大きく違うのは、子どもには時間がたっぷりあるということ。乱れてしまった習慣も、いくらでも回復できる、直していける時間があるんだととらえましょう。

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子どもたちは数カ月ぶりに学校に通うことになる

―体力も相当落ちているような気がします。

 休校中も家の中でもできる体操をしなさい、などと口うるさく言われてきた子どももいるかもしれませんね。でも、子どもの体力は環境が変わればまた元に戻るので心配いりません。中高年の方が深刻ですね(笑)。

 子どもの体力が落ちた落ちたと言われていますが、例えばオリンピックでマラソンが注目された直後には持久走のレベルが上がっていたり、サッカーの世界大会の後は球技のスキルが上がったりということが子どもたちにはあります。子どもは環境に影響される部分がとても大きいのです。 

―休校が長引いたことで、遅れた学習カリキュラムを取り戻すために、再開後の学校はぎゅうぎゅう詰めになるのではと言われています。親子ともそのペースについていけるのか不安です。

 おそらく、現場の先生たちはまじめですから、なんとかキャッチアップしようとして必死に詰め込むでしょう。夏休みの短縮をすでに発表している自治体もあって、今年の夏は子どもたちにとっては地獄の夏になるかもしれません。

 文部科学省も本年度の内容は次年度に持ち越しても良いと通知していますが、ゆるやかな対応をしていかなければ、子どもの身体的、心理的な負担は相当大きなものになり、かえって学校嫌いを増やす危険性があると心配しています。

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休校中、一人での学習に苦労した子どもも多そうだ

 また、特に小学校低学年にとって学校は「学び方を学ぶ」「自主的に学ぶことを身につける」ということがとても大事なのに、とにかく授業をこなすために受け身にならざるを得なくなるのも、目指してきた教育のあり方に逆行すると思います。

 学校再開の目的が、教育の進行だけになってくると、子ども自身だけでなく、親も追い込まれる恐れがあります。家庭で取り組む課題が増え、いつもなら先生が指導していたことを家庭の中で親が言わなくてはならない。そうなると、どうしても親子の関係性が悪くなるなど、家庭内の葛藤は高まります。このことは真剣に考えなくてはならない問題です。

―親はどう対応したらいいのでしょう。

 家庭の判断で「できない」とスルーするのは1つの手ですが、なかなかそうできる家庭は少ないと思います。親の中にもとにかくカリキュラムを終えてほしいと考える人もいたり、いろんな考えがあると思いますが、こういうときこそPTAを通じてなど、複数の親から学校に意見を伝えてもいいのでは。災害などでしばらく学校に行けなくなり、その地域の子が他の地域の子に比べて学習が遅れる、ということもありますが、今回はある意味で日本中、もっといえば世界中の子どもたちが同じような影響を受けています。そういう大所高所に立った視点を持つことも必要かもしれません。

―これまでの生活でたまったストレスによる子どもたちの心も心配です。

 今回のコロナ危機のようなことがあると、社会がどう対応するかを決めるのはどうしても大人です。仕事のこと、経済のこと、まず大人の生活のことを心配し、子どものことは後回しになりがちです。社会全体の感染拡大を防ぐという目的で始まった休校も、子どもからの感染は少ないということも指摘されている中で、判断の基準の主軸は「大人社会への影響」だったように感じています。

 ですが、それによって子どもの生活圏はむちゃくちゃになり、その上慣れないオンライン授業や大量の課題に家で一人で取り組まなくてはならないなど、子どもたちはこの間相当のストレスをためています。だからこそ今は、焦って進めようとせず、待ってあげること、必ずまた元に戻っていくと信じてあげることを大切にしていってほしいと思います。

榊原洋一(さかきはら・よういち)

医学博士。「子どもは未来である」という理念を掲げ学際的、国際的な活動を推進する、インターネット上の「子ども学」研究所「チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)」所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学、特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞。2男1女の父。主な著書に「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解 よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。

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May 27, 2020 at 10:00AM
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