コロナ禍で売上が激減している飲食業は多い。そのような状況の中で経営を大きく圧迫するのは「家賃」である。昨年の今頃、飲食業経営者たちが不動産会社への家賃支払いを一定期間猶予、減免できる法整備を政府に求める動きもあった。
このような家賃が抱える問題は「固定」であることがその源泉である。そこで飲食店には家賃に大きく影響される「損益分岐点」が存在し、それをクリアすることを目安として経営計画を立案する――ということが常識となっている。
それに対して、「家賃を変動費にする」「売上に応じて利益を分配する」というビジネスモデルが現れた。これによって不動産会社は最低限の家賃を確保しつつ、テナントの売上が想定を超えた場合は従来よりも大きな収益を見込めることになり、飲食店は不測の事態に陥っても家賃が大きな負担となる状況を回避することができる。
この仕組みで4月6日、東京・麻布十番のビルの1階に「BIRTH DINING by plein」がオープンした。不動産会社は株式会社高木ビル(本社/東京都港区、代表/高木秀邦)で、出店している飲食業は株式会社PLEIN(プラン、本社/東京都港区、代表/中尾太一)である。店舗は約14坪14席で、オープンキッチンが中央に構成された調理人と顧客が一体となれるレストラン空間となっている。前面がガラス張りとなっていてセンスのよい空間が外から見渡すことができる。
飲食業の人たちが活躍する舞台をつくる
高木ビルは今年創業60周年を迎える不動産会社で、「時代が激変する中で、ビルオーナーとしてテナントをはじめオフィスビルが存在する街に価値を提供する」(代表の高木氏)ことを模索してきて、これまでオフィスビルへの入居にかかるイニシャルコストを抑えて企業の成長を支援する「次世代型出世ビル」や、企業の成長と協業を後押しする場を提供する「BIRTH」を展開している。BIRTHはコワーキングスペースをはじめとした入居者同士が交流できるなどの充実した多様なスペースとなっている。
BIRTH DINING by pleinが入居したビルは2020年7月にオープンしたオフィスと住居が一体となったレジデンスで17室がある。現在のレストランの空間はこれまでチャレンジキッチンとして若手シェフに提供したり、レジデンスの居住者がクローズドでイベントを行っていた。このスペースをこの度BIRTH DINING by pleinとした背景について高木氏はこう語る。
「コロナ禍でさまざまな飲食店の人たちが、経営的にとても苦労して悩みを抱いていることが浮き彫りになりました。そこで、われわれが飲食業の経営者のお手伝いをして、シェフたちの活躍の舞台をつくるためにどうすればよいかと考え、この度出店していただいたプランの中尾さんと相談したところ、この共同事業が発案されました」
プランは2017年にフランス料理店の1号店を東京・表参道に出店、その後業種を変えて、麻布、代々木上原、恵比寿と展開してきた。創業時に「飲食店をあこがれの仕事にする」というミッションを掲げて、1号店から「週休二日制」を実践、若手の料理人を育て、コロナ禍でいち早くオンラインショップを手掛けて黒字体質を維持し、医療従事者支援を行うなど活発に展開している。高木氏はプランのファンで、常連客として代表の中尾氏と親交を重ねていた。
業界の枠組みを超えて新しい価値を創造
BIRTH DINING by pleinのスキームは、高木ビル側にとって「これまでのようにイベントスペースとして貸し出すよりも物件の稼働率が上がり、収益が向上する」「食を通じた付加価値によって施設利用者の顧客満足度が上がる」というメリットがあり、プラン側にとって「出店初期投資が大幅に軽減される」「コロナ禍において飲食店にとって経営の重荷となっていた“固定費”の家賃が“変動費”になる」というメリットがある。
「不動産業、飲食業とそれぞれ強みを持つところが、業界の枠組みを超えて共に更なる高みを目指そうということ。われわれ不動産業は賃料をいただくという発想ではなく、このスペースを一緒に運営することによって、コストも収益もシェアしながら、さまざまな企画を考えていきます。単に飲食店であるだけではなく、よりクリエイティブな飲食にチャレンジしていただき、シェフを育成する機能といったことにイニシャルコストのかからない形で運営していただく」
このように高木氏はBIRTH DINING by pleinの展望を語る。
一方のここでレストランを運営するプランの中尾氏はこう語る。
「コロナ禍で尊敬する経営者のお店やなじみのお店が閉店したり、独立志望の若い料理人たちが飲食業に夢が描けなくなったと言うようになったりしました。自分はこのような時代だからこそいろいろなことにチャレンジしたいと思っていて、そのタイミングで高木社長からこの場所をご紹介いただいた」
「初めてここの物件を見て『食堂みたい』というインスピレーションがあった。そこでコンセプトは『麻布十番のネオ食堂』です。この洗練された解放感のある空間の中で『食堂』の意味を深掘りしたい。家庭のようにくつろいで、地域の人たち同士で交流をしてもらいたい。フレンチ料理人の私たちはシンプルだが上質な食事を提供して、地域の人たちにカジュアルに食を楽しんでいただきたい」
客単価は、ランチタイムはカレーの専門店として1300~1600円程度、ディナータイムは4000~5000円を想定している。レジデンスの居住者からメッセンジャーで注文があれば部屋に商品を届ける。ホテルのルームサービスのような感覚だ。
コロナ禍だからこそ新しい道が切り拓かれる
さて、“変動費”となっているBIRTH DINING by pleinの家賃の内訳はざっくりと次の通り。まず、同店としての営業は週5日ということから、固定の部分は相場の3分の1から2分の1の間。変動する部分は売上の15~20%の間となっている(昼と夜の設定が異なる)。レストランが休業する月火はレジデンス居住者の共用部として活用する。
「この度の出店コストは「この規模だと一般的に800万~1500万円となりますが、今回はその10分の1に収まった」と中尾氏は語る。2月末から3月いっぱいプレオープンを行っていたが、この間ランチ営業だけで100万円を売り上げた。これからのディナー営業のポテンシャルは高い。
「飲食業のビジネスモデルがコロナ禍を経て変わりました。これまでは客数×客単価で店舗の中だけの商売でしたが、今ではデリバリーやオンラインショップとか、さまざまなところで収益が立つようになった。飲食業が進化しました」(中尾氏)
不動産業も飲食業も意欲的に取り組んでいるところはコロナ禍にあって新しいビジネスを切り拓いている。
からの記事と詳細 ( 飲食店経営を圧迫する「家賃」を変動制に コロナ禍のシェフを支援するビジネスモデル誕生(千葉哲幸) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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