Monday, February 17, 2020

〝日本製〟義足は新国立競技場をどう駆け抜けるか - WEDGE Infinity

五輪を彩るテクノロジー

2020年2月18日

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黒井克行 (くろい・かつゆき)

ノンフィクション作家

1958年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家。人物ドキュメントやスポーツ全般にわたって執筆活動を展開。主な著書に『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『男の引き際』(新潮新書)、『高橋尚子 夢はきっとかなう』(学研)、『日野原新老人野球団』(幻冬舎)、『指導者の条件』(新潮新書)、『ふるさと創生―北海道上士幌町のキセキ』(木楽舎)他多数。

[執筆記事]

 パラリンピックの義足ランナーのほとんどがヨーロッパ製の義足に頼り、日本の選手たちはそれに順応させる形で競技に臨んでいた。2014年、日本の研究者、アスリート、素材メーカーが“三位一体”となって選手の走り方に合わせた義足製作が始まった。

東京パラリンピック代表候補の佐藤圭太選手が実際に走り、義足が開発された

 米マサチューセッツ工科大学に所属していた研究者の遠藤謙氏は同年に義足開発ベンチャー「Xiborg」を起業した。高校の後輩が骨肉腫を患って足を切断したのをきっかけにロボットなど「二足歩行」の研究をはじめ、義足に可能性を見出し、競技用の開発に進んだのである。

 開発研究の過程で選手やコーチの声に耳を傾けると、「速く走れるようになる義足は選手によって絶対に違う」とニーズが顕在化した。そこで“オーダーメイド”での義足製作にこだわった。素材選びでは炭素繊維(カーボンファイバー)に注目した。炭素繊維は鉄に比べ軽さが4分の1、強度は10倍で弾性率も7倍。しかも錆びず耐熱性や耐低温性にも優れている。航空機体や風力発電機翼と広い分野に用いられるなど、設計の自由度も高いのがその理由である。

 ただ、その扱いは難しくて手に負える代物ではなかった。選手により良い義足の技術や設計ができたとしても、それに合わせた素材の成形ができなかった。そこで出合ったのが、炭素繊維の世界的シェアを誇る東レの100%子会社「東レ・カーボンマジック」(以下、カーボンマジック)だった。

 カーボンマジックは、炭素繊維の研究・開発を手掛け、用途に応じた複合材の設計・開発を行っていた。そもそもの原点はレーシングカーだった。自動車は安全性と強度を求められるが、レーシングカー自体は「いかに速く走らせるか」が絶対使命である。そのための一つが「軽量化」であり、レーシングカーのボディは鉄からアルミ、そして行き着いたのが炭素繊維だった。すでにヨーロッパでは開発製品化が行われていたが、材料となる炭素のほとんどが日本の〝東レ産〟だった。

 日本でもバトミントンラケットやゴルフクラブなどスポーツ用途への導入は早かったものの、航空機材や義足になると、ヨーロッパ製が圧倒的だった。「世界で実態のないものを生み出す余地はまだ多分に残された世界で、カーボンファイバーのものづくりで〝日本発〟というものをたくさん作りたい」(カーボンマジック社長・奥明栄氏)。これがいわば会社のコンセプトとなり、以降、自動車部品やドローン、介護機器にいたるまで、あらゆる分野の依頼に応じて製品を作り出している。

 遠藤氏による最先端の設計技術と、カーボンマジックが誇る繊細な素材調整と品質管理が合わさった。「選手が求めるもの」を具体化するために、ロンドンとリオの2大会連続でパラリンピックに出場し、東京大会出場を目指す佐藤圭太選手(右下腿(かたい)義足を装着)も競技用義足の開発に加わった。

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