Wednesday, February 26, 2020

これからの気候変動リスクに備えた、災害に強い住まいの選び方 - SUUMO ジャーナル(スーモジャーナル)

これからの気候変動リスクに備えた、災害に強い住まいの選び方

(写真/PIXTA)

近年、気候変動リスクが高まる中で、想定外の「激甚災害」が相次いでいます。2019年に発生した台風15号や台風19号が猛威を振るったのは記憶に新しいところ。また2018年には「西日本豪雨」「北海道胆振東部地震」、2017年「九州北部豪雨」、2015年「関東・東北豪雨」、2014年「広島土砂災害」など、自然災害が頻発してきました。

標高の高い内陸部にも浸水の可能性がある?!

「浸水」や「洪水」というと、「江東5区大規模水害対策協議会」を協力して設置している墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区や、海沿いの低地などがイメージされますが、浸水可能性のある地域は標高の高い内陸部にも存在します。そして、そうした地域にも一戸建てやマンション、アパートなどが当たり前に建設されています。

例えば、東京内陸部にある世田谷区の標高は25~50m程度と高いのですが、起伏が非常に激しく、ハザードマップを見ると、浸水可能性のある地域が多数存在します。

東京など都市部の場合、雨水の排水処理能力は1時間あたり50~60mm程度を想定していますが、それを超えて処理しきれない分は路上にあふれ出します。昨今のいわゆる「ゲリラ豪雨」と呼ばれる大雨は、時間当たりの雨量が100mmを超えることが少なくありません。こうした排水能力を超えた大雨に見舞われた際、排水路から雨水・下水があふれ出します。その結果、たとえ標高は高くても周辺の土地に比べて相対的に低い所に水が集中します。

東京・港区といえば、芸能人も多く住む、セレブに人気の街です。しかし、北西一帯の高台地と呼ばれるエリアにも、古川(金杉川)があり起伏に富んだ地形となっており、「後背低地」となっているところでは、地下水位が高く、周辺地より標高も低いため、排水性が悪く洪水などの水害を被りやすい地域もあります。地盤分類上も「谷底低地2、3」とされる地盤の軟弱層が3m以上の、比較的軟弱で地盤沈下の恐れがあり、地震動に弱いところもあります。有名な住宅地と呼ばれる地域でも、ハザードマップで2mの浸水が想定されているところは少なくありません。

不動産価格に反映されていない浸水リスク

不思議なことに、浸水可能性のある地域は、そうでないところと比べて、地価(不動産価格)に大きな違いが出ていません。その理由は、「多くの人がハザードマップなどの災害関連情報に無頓着だから」です。
宅地建物取引業法において、現状、不動産の売買・賃貸時に浸水想定区域などについて説明する義務はありません。情報開示の姿勢は取引現場によってまちまちです。浸水リスクが不動産価格に反映されたり、金融機関の担保評価に影響を与えていることはほとんどありません。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

浸水リスクと同じく、「活断層の所在」や「地盤」「土地高低差」「液状化の可能性」「建物の耐震性能」なども物件価格に反映されていません。「自治体の防災意識」や「コミュニティの成熟度」も同様です。
不動産広告にもこうした項目は入っていませんし、売買契約書や重要事項説明書にも記載はありません。私たちは、日本の不動産市場はこの程度の成熟度で、発展途上の段階であることを、知っておく必要があります。

楽天損害保険は2020年から、住宅火災や水害、風災に備える火災保険で、国内損保で初めて、水害リスクに応じた保険料率の見直しを行うと発表しました。ハザードマップで洪水可能性などを考慮し、高台等にある契約者の保険料は基準より1割近く下げる一方、床上浸水のリスクが高い川沿いや埋め立て地等に住む契約者の保険料は3~4割高くします。こうした動きは今後広がっていくでしょう。
私たちは自ら水害をはじめとする土地のリスクを調べ、それに応じた対策を行う必要があります。今のところは浸水可能性のあるエリアとそうでないエリアの間で、価格差は見られませんが、やがては安全性に応じて天地ほどの差が開く可能性が高いでしょう。

地名で分かる?かつての土地状況

「土地の履歴書」ともいえる「地名」には、しばしば地域の歴史が刻まれています。例えば「池」や「川」「河」「滝」「堤」「谷」「沼」「深」「沢」「江」「浦」「津」「浮」「湊」「沖」「潮」「洗」「渋」「清」「渡」「沼」など、漢字に「サンズイ」が入っており、水をイメージさせるものは低地で、かつては文字どおり川や沼・池・湿地帯だった可能性があります。例えば渋谷駅周辺は、舗装された道路の下に川が流れており低地です。

内陸部でも「崎」の地名がつくところには、縄文時代など海面が高かった時代に、海と陸地の境目だった地域もあり、地盤が強いところと弱いところが入り組んでいる可能性があります。東日本大震災の津波被害で一躍注目を浴びた宮城県仙台市の「浪分(なみわけ)神社」は、1611年の三陸地震による大津波が引いた場所という言い伝えが残っています。

ほかにも「クボ」のつく地名は文字どおり窪地です。周辺に流れる川に過去、氾濫で水害に見舞われていないか注意が必要です。

目黒区には現在暗渠になっている蛇崩川(じゃくずれがわ)という河川がありますが、ここには大水で崖が崩れ、そこから大蛇が出てきたという伝説が残されています。大阪市梅田は「埋田」から転じたとされ、「梅」は「埋める」に通ずるようです。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

地名は「音」(読み方)で意味が分かる場合もあります。椿はツバケル(崩れる)で崩壊した土地を意味し、「桜」が「裂ける」を意味することもあります。

注意したいのは、近年になって地名が変更されたところです。戦後の高度経済成長期以降に開発された大規模宅地などでは、旧地名から「〇〇野」「〇〇が丘」「〇〇台」「〇〇ニュータウン」といった地名に変更されている場合があります。

東日本大震災に伴う津波に関し「津波は神社の前で止まる」とテレビで話題になったことがあります。福島県相馬市の津(つのみつ)神社には「津波が来たら神社に逃げれば助かる」という言い伝えがあり、近隣の人たちは、小さいころからその伝承を聞いて育ったそうです。実際3・11の東日本大震災の津波の際にはその教えに従い、神社に避難した50人ほどが助かりました。

地域にある法務局に行くと、該当地の「登記事項証明書」を一通600円で、土地所有者でなくても取得できます。そこには「田」「畑」「宅地」といった土地の用途区分が書かれています。現在は宅地に見える土地でも、過去をさかのぼれば田んぼだったかもしれず、そうなると地盤は軟らかい可能性が高くなります。

地元の図書館に赴けば、地域の歴史が刻まれた書籍が置いてあることが多く、それらを参照するのも有用かもしれません。また多くの自治体が地名の由来などについて、ホームページで紹介しています。

IPCC (気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書によれば、地球の温暖化傾向は明白であり、陸域と海上を合わせた世界の平均気温は、1880年から2012年の期間に0・85度上昇したそうです。
世界気象機関は、80年代以降の世界の気温を10年単位で見ると、常に気温上昇の傾向が見られ、「この傾向は続くと予想される」と警告しています。
気象庁によれば、温暖化が最悪のシナリオで進行した場合、21世紀末に世界での台風発生総数は30%程度減少するものの、日本の南海上からハワイ付近およびメキシコの西海上にかけて猛烈な熱帯低気圧の出現頻度が増加する可能性が高いと予測しています。文字どおり「想定外」の、さらなる頻度や規模の風水害が来るとみたほうがいいでしょう。

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