Wednesday, November 10, 2021

手軽さ特化型VRグラス「VIVE Flow」メディア向け体験会レポート - IGN Japan

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2016年のVR元年から5年が経過してVRデバイスは確実に進歩している一方で、重量はこれまでのほとんどの機種で450gから500g近くあるという、無視できない側面がある。そんなVRデバイスのトレンドに一石を投じるのがHTCの『VIVE Flow』だ。

HTCによる取捨選択の優れた設計で「VRヘッドセットではなくVRグラス」と自称するコンパクトな筐体を実現しており、「がんばる必要のない快適さ」というコンセプトに沿ったこのうえない手軽なVR体験を享受できる。

とはいえ、VIVE Flowはいわゆる『Beat Saber』や『Half-Life: Alyx』のような動きの激しいVRゲームのプレイを想定しておらず、360度映像・パノラマ映像や動きの静かなVRコンテンツ(カジュアルなVRゲームも含む)を対象としている。

つまるところVRゲームをプレイするためのVRデバイスではない。HTCはVIVE Flowの用途を「マインドフルネス向け」と称しており、軽量化と手軽さに全てを注ぎ込んだ一点突破型のVRデバイスなのだ。

VIVE Flowの三つの特徴

(1)コンパクトさを実現したレンズとバッテリー

VIVE Flowのコンパクトなサイズにもっとも貢献しているのは「パンケーキレンズ」の採用であろう。2016~2021年時点のVRデバイスでは基本的に「フレネルレンズ」が採用されているのだが、焦点距離(ディスプレイとレンズの距離)がある程度必要なのでそれに応じてVRヘッドセットも大きさが必要だった。VIVE Flowは他機種より先駆けてハーフミラーと偏向レンズの2枚重ねを特徴とする「パンケーキレンズ」を採用することでディスプレイとレンズの距離を短くし、コンパクトに納めた。

VIVE Flowの解像度は片目あたり1600 x 1600であり、HTCの他製品(VIVE Focus 3/VIVE Pro 2: 2448 x 2448)や競合製品(Oculus Quest 2: 1832x1920)と比べると控え目ではあるもののVIVE Pro(1440 x 1600)よりは高く、カジュアルなユースケースで困ることはないだろう。詳細は後述するが、搭載SoCやバッテリーとの兼ね合いでこの解像度に落ち着いたと筆者は推測している。

小型化の理由はレンズだけではない。VIVE Flowはバッテリーが内臓されておらず、モバイルバッテリーとの接続が必須になっている(バッテリー交換時に5分間だけ電源をキープできるホットスワップ機能はある)。基本的に着座など静かな姿勢で使うことを前提としているので、ケーブルが長めのモバイルバッテリーをポケットに入れるかテーブルなど平らな場所に置くことが推奨される。

VIVE Flowの重量はわずか189gと従来のVRデバイスの40%程度であり、HTCはこれを「チョコバー1本分の重さ」とアピールしていた。VIVE Flowの”つる”は厚みがあるもののメガネのように折りたたむことができる。他機種の専用キャリーケースがランチボックスほどの大きさがあるのに対して、VIVE Flowは少し大きいボトル程度のケースに収まるのだ。すでにVRデバイスを所有している人ほどこのコンパクトさには驚くことだろう。

ただし、気になった点として頭を大きく振り回すとディスプレイの端がやや点滅している現象が見受けられた。これも「VIVE Flowは体を大きく動かさないコンテンツを対象としている」ので頭を大きく振り回すこと自体が想定外の挙動であり、今後のシステムアップデートによって調整していくとの回答を頂いた。

(2)メガネいらずの度数調整ダイヤル

VIVE Flow左右のレンズに度数が調整できるダイヤルがついており、片目ごとに視力を調整できる(というよりもメガネの入るスペースが存在しない)。今までVRヘッドセットにメガネをねじこむ手間に苦労させられた人にとっては福音のような機能だ。

ピントを合わせる手順はフェイスクッションを外したVIVE Flowの画面を覗き込みながら片目を閉じてダイヤルを回すだけ。このときはマグネットの鼻パッドをつけたほうがいいだろう。両目のピントの調整ができたら鼻パッドを取り外してフェイスクッションを取り付ければOKだ。

VIVE Flowの度数調整ダイヤルが対応する視力についてはっきりとした情報はなかったが、取材に応じた担当スタッフによれば視力が0.01度以上の場合は裸眼で大丈夫で、0.01度未満の場合はコンタクトレンズをつけないと画面がはっきりと見えないかもしれないとの回答を頂いた。筆者は軽い乱視の混じった近視のメガネユーザーであり、視力はおよそ0.1程度だがダイヤルを調整することで焦点をはっきりと合わせることができた。

(3)コントローラはスマートフォンで、3年ぶりの3DoF入力

VIVE Flowにはコントローラが付属しておらず、スマートフォンのジャイロセンサーを利用して疑似的な3DoFコントローラとして扱う。ゲーマーになじみのある言い方をすれば、Nintendo SwitchのJoy-Conのモーションコントロールと同じぐらいの精度だ。そのため、他機種のようにコントローラの位置を正確に認識してVR空間に投影するわけではなく、あくまでVR空間に浮かび上がるUIをポインティングできる程度の機能のみとなる。

そのためコントローラとしてのボタン配置も特殊で、スマートフォンの縦持ちの画面をX字に区切り、画面の上方向がVIVEメニュー、下方向がソフト内メニュー、左右方向が選択・ドラッグ・ホールドという操作となる。いちおう視界を塞いだままスマートフォンを手に持つので両手で画面を抑えるように持つことになるし、スマホを落としてしまう心配がある人はストラップなどそれなりの対応が必要だろう。

なお、対応スマートフォンにも条件がある。基本的にはAndroid OSのみで、搭載チップはSnapdragon 765/865以上あるいはMediaTek Dimensity 1000 以上、さらに画面ミラーリング機能「ミラキャスト」への対応が必要だ。これはおおよそ2019年以降のミドルレンジ~ハイエンド系スマートフォンが要求され、2019年以前やローエンドのスマートフォンを使っているユーザーはVIVE Flowを利用できない(当然iOSも未対応)。詳細は後日に公式サイトで公開される対応機種リストを参照してほしい。

なお、「ミラキャスト」機能を用いることでスマートフォンの画面の映像をVIVE Flow内に転送して表示することができる。これがなぜ特徴的なのかといえば、ユーザーが視聴したい動画およびソフトウェアが必ずしもVRヘッドセットに対応しているとは限らないからだ。

これによりVRの巨大スクリーンで映像を鑑賞したりネットブラウジングをしたりできるが、360度映像・パノラマ映像はスマートフォンからのミラーキャストに非対応とのことだった(パノラマ映像を楽しみたい場合はVR専用ブラウザのFirefoxReralityや専用のVR動画ビューワーを推奨)。

互換が気になるスペックとソフト

メディア向けプレビューではいくつかのVRソフトウェアを体験できたが、その前にVIVE Flowのスペックについて言及しよう。VIVE Flowに搭載されたSoC(CPUやGPU、メモリが一体化したチップ)は「Snapdragon XR」で、実は2019年に発売されたVIVE Focus PlusやOculus Quest(無印)と同じものだ。2021年時点で主流のSoC「Snapdragon XR2」よりも世代が一つ古い。

そのため、SoCが共通のVIVE Focus Plus向けに発売されたコンテンツがVIVE Flowでも動作する。VIVE Flow専用コンテンツもリリースされる予定で、体験会ではVIVE Flowのスマートフォン操作を活用したVRスネークゲームがプレイできた。

特に体験会でHTCがアピールしていたソフトは『VIVE Sync』と『STYLY』だ。『VIVE Sync』はHTCが展開するエンタープライズ向けソーシャルVR、いわゆる流行りのメタバースだ。PC・モバイル・VRのクロスプラットフォーム対応で、当然VIVE Flowでも他機種のユーザーとクロスプレイできる。STYLYはPC/モバイル/VRで動作する日本発のユーザー投稿型VR/ARプラットフォームだ。VIVE Flow版STYLYではVIVE Flow専用に制作された、あるいはVIVE Flowでも動作することが確認されたいくつかのステージが無料で楽しめる。

筆者の印象としては、どちらの体験も「眺めるだけ」であれば全く不自由しないのだが、操作は慣れるまでに時間がかかることが否めなかった。他のVRデバイスでは当然のようにできる「3D空間へのインタラクティブな干渉」ができないフラストレーションはあるし、逆に言えば他のVRデバイスの経験がなければ気にならないかもしれない。また、スマートフォンの性能や調子によっては操作の反映に遅延が生じることがった。これもシステムアップデートで随時調整していくとの回答を頂いた。

VIVE Flowリリース時点では100以上のコンテンツが対応しており、2021年末には150以上のコンテンツがVIVE Flowに対応する予定だ。また、VIVE Flow専用のサブスクリプション「VIVEPORT Infinity Vista」も(年間契約の場合は月額1000円)予定されており、既存のVIVEPORT Infinityとは別契約となる。

ハードコアなVRゲーマー・開発者向けの情報

以上ではHTC本来が想定したであろうカジュアルなユースケースについて解説したが、読者の中にはVRゲーマーのみならず開発者寄りのディープな情報が必要な人もいるだろう。そこでハードコアな読者が気になるであろう疑問を尋ねた。

(1)他機種のコントローラ、およびPC接続には対応せず

VIVE Flowのコンパクトさを体感すると「このVRグラスでPC VRができたらなあ」という感想を抱かずにはいられないが、公式でVIVE FlowをPC VRへ対応させる予定はないとのことだった。当然HTC VIVE、VIVE Cosmos、VIVE FocusなどHTCの他シリーズのコントローラにも対応しないが、開発者向けにVIVE FlowのSDKは公開されるので頑張れば対応できるかもしれないとの回答も頂いた(改めて公式では対応しないことを強調しておく)。

(2)パススルー機能を用いたARコンテンツには対応せず

オールインワン型(スタンドアロン型)のVRデバイスではVRヘッドセットをつけたまま外を視認できるパススルー機能が搭載されており、Oculus Quest 2では(テスト段階ではあれど)これを利用したARコンテンツの開発ができる。しかし、VIVE Flowにもパススルー機能はあるものの、外が気になったらとっさにVRグラスを外せるぐらいコンパクトであることが重要なのでパススルー機能を応用したコンテンツは重視していないとのことだった。

(3)ハンドトラッキングに対応予定(だが時期は未定)

VIVE Flowはスマートフォンによる操作で対応できるコンテンツに制限が生じるものの、完全にフリーハンドで操作可能になったらVIVE Flowは化ける可能性があると筆者は推測している。先述のVIVE Syncも筆者が6月にHTCを取材した際にハンドトラッキングに対応予定と伺っていたのだが、それから続報がないため首を長くして待ちたい。機能がリリースされ次第サードパーティもハンドトラッキングを用いたアプリケーションをリリース可能とのことだ。

そのほか、VIVE FlowはしばらくEC(オンライン販売)限定であるものの、コロナ禍による縛りがなくなれば体験会も検討していること、海外ではVIVE Flowのエンタープライズ用途の案件の話がいくつか来ていること、同じくHTCのオールインワン型VRデバイスであるVIVE Focusシリーズとは別にVIVE Flowシリーズを継続して展開する予定であることを伺えた。

総評

HTCはVIVE Flowをカジュアルなユースケース(マインドフルネス)専用と割り切り、SoCとバッテリーを妥協することでかつてないコンパクトさを実現した。また、Androidスマートフォンを3DoFコントローラとして扱えるのは斬新で、スマートフォンの映像をVIVE Flow内にミラーリングできるのもありそうでなかったアイディアだ。

一方で性能やコントローラが物足りない面は否定できないが、今後もし性能や解像度が順当に進化した上でコスト問題を解決することができたらVIVE Flowシリーズはカジュアルユースのみならずエンタープライズの需要も増えるだろう。まずはハンドトラッキング対応によるソフトウェアの幅の拡大に期待したい。

VIVE Flowの価格は税込5万9900円(米国では500ドル)、予約開始は11月11日、発売日は11月18日となっている。手軽さに特化したコンセプトと機能に相応の価値がある野心的な製品だ。

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