[フランクフルト 8日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)は8日、戦略見直しの結果を発表しつつも、数多くの疑問に対する答えを示さなかった。しかし1つ明確にしたことがある。米連邦準備理事会(FRB)が昨年導入した平均インフレ目標政策には追随しないということだ。
背景にはECB自体が抱える問題と、FRBが市場との対話に苦心しているという事実がある。
ECBがFRBの戦略と一線を画した理由について、5つのポイントをまとめた。
◎政治
FRBの平均インフレ目標政策は、インフレ率が長期間にわたり目標値を下回った後には、目標値をオーバーシュートさせることを明確に約束している。インフレ嫌いのドイツにとっては受け入れがたいことだ。
ラガルドECB総裁は、インフレ率が一時的に目標値をオーバーシュートする可能性はあると説明。一定の状況下では、ECBが結果的にそうした上振れにつながる政策を行うこともあるだろうとも述べた。しかし、上振れは政策の目的ではなく、FRBのオーバーシュート型コミットメントほど強いものではない。
これは、インフレ率をオーバーシュートさせる考え方を繰り返し拒否してきたワイトマン・ドイツ連銀総裁の勝利と言えるかもしれない。
ラガルド総裁は記者会見で「われわれはFRBのような平均インフレ目標政策を行うのか。答えは、きっぱりとノーだ」と述べた。
◎物価下振れの度合いに差
ユーロ圏のインフレ率は米国よりも、中銀の目標値を大きく下回っている。従って、ECBがインフレ率の平均値を目標にすると、米国よりも大幅なオーバーシュートを目指すことになる。
昨年のユーロ圏のインフレ率は平均0.3%と、新たなECBの目標値2%を大幅に下回った。コロナ禍前の2019年でも1.2%だった。
これを相殺するのは不可能に近い。ほとんど枯渇した政策手段によって大幅なオーバーシュートを目指すことになり、ECBの信頼性を揺るがすだろう。仮に政策手段に余裕があったとしても、非常に強い政治的抵抗に遭いそうだ。しかも、それほどまでに大きな物価の振幅は経済にとって健全ではないだろう。
◎柔軟性
ECBの戦略は全体として、柔軟性を意識した設計となっている。物価目標を中期的に達成するとしているが、「中期的」の定義はなく、曖昧な概念だ。目標値からの乖離についての文言も漠然としており、理事会に最大限の柔軟性を持たせている。
将来の政策変更についてのガイダンスも不明瞭な表現となっている。これがFRB型の平均インフレ目標政策に移れば、せっかくの柔軟性が低下するだろう。
◎面倒
中期的に平均インフレ目標を目指す政策には面倒さがつきまとう。中銀はその期間と、注目する物価指標を具体的に定義する必要が生じる。
そうなると市場は中銀に説明責任を求め、それに応じて資産価格を決めていく。このような枠組みではECBの柔軟性が損なわれるか、あるいは枠組みの諸条件を明示しない場合には市場を混乱させ、資産価格の不安定化を招くだろう。
◎FRBの苦労
FRB自体が苦労していることも、ECBを及び腰にさせた。
FRBは昨年8月に「柔軟な平均インフレ目標」を採用したが、容認するオーバーシュートの幅や期間を定義していないとして批判を浴びてきた。
1年近くたった今でも、状況は明確になっていない。FRB幹部の間でも物価予想が異なり、インフレリスクに対する感度もばらばらなため、大きな亀裂が生じている。幹部の一部は早くも来年には利上げが始まると見込む一方、最初の利上げは2024年になると予想する幹部もいる。
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