Thursday, July 29, 2021

ミスミグループ本社、部品調達の現場に起こす地殻変動 - 日経ビジネスオンライン

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この記事は日経ビジネス電子版に『ミスミ、調達DXで第2の創業 3.8億時間、2兆円のムダを一掃せよ』(6月11日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』8月2日号に掲載するものです。

ミスミグループ本社が新たなサービスで製造業の調達現場に地殻変動を起こそうとしている。同社の代名詞である「カタログ販売」に加え、顧客が欲しい部品を瞬時に自動見積もりし短納期で供給する。調達業務の負荷を軽減する画期的なサービスをどのように作り込んでいったのか。

 大阪府門真市にあるパナソニックの社内カンパニー、パナソニックインダストリアルソリューションズ(IS)。デバイスの組み立て設備などを手掛ける。パソコンの前に座った設計担当者が、欲しい部品を3次元(3D)CAD(コンピューターによる設計)で描くとものの数秒で見積もり価格が画面上に現れる。使うのはミスミが5年ほどかけて開発した機械部品の調達ソフトウエア「meviy(メヴィー)」だ。

 「1部品当たりの作成、調達業務が平均15分と半分以下になった。生産性が一気に高まり労働負荷が下がった」。パナソニックISメカトロニクス事業部設備開発一課の西山吉晴主任技師はメヴィーの効果を実感している。

 これまで複数の部品調達先から見積もりを取り、3D図面も紙の平面図に描き直して送る必要があったが、そうした業務が解消された。2020年から使い始めすでに5000点の部品にメヴィーを活用。順次対象を広げている。

 ミスミはメヴィーを19年から本格販売し、21年7月半ば時点で約6万のユーザーが採用。リピート率は8割以上といい、トヨタ自動車、日本電産、東レ、オリンパスなど名だたる製造業が顧客リストに名を連ねる。業界からは「革新的」との声が寄せられている。なぜメヴィーが革新的なのか。

 一般的に金属や樹脂の部品はCADソフトを使って3D設計する。問題はその後。調達先に見積もりを取ったり発注したりする際、紙の図面に描き直すケースが多いのだ。CADのデータを発注先に送ればすぐ見積もりと商談ができ、受発注が成立すると思われがちだが、CADは色々なソフトウエア会社が手掛けており互換性に乏しい。

 そもそもCADデータをやり取りできる中小企業はまだ少数にとどまっている。紙の図面に頼らざるを得ないがその場合、図面のやり取りはファクスだ。ミスミのサービスを使う会員5100社を対象にした調査によると、約98%が調達でファクスを利用しているという驚きの実態が浮かび上がった。

部品見積もりにファクスを使う企業はなお多い
●ミスミグループ本社による同社サービス利用会員5100人を対象にした調査

 ミスミの試算によると、例えば1500の部品からなる機械の調達現場では作図に約750時間、ファクスによる見積もりに約80時間、製造や出荷に112時間を要するという。積もり積もって計1000時間、125日も費やしていることになる。

部品調達で年間2兆円のムダ

 仮にこの機械の調達業務を全国の製造業におしなべて計算してみると年間3.8億時間。時給を基に経費換算すると「年2兆円以上の間接コストがかかっている計算になる」(ミスミ)という。

日本の製造業の労働生産性は低下の一途をたどっている
●OECD加盟国の製造業の労働生産性、日本生産性本部の資料に基づく

 こうしたムダもあって日本の製造業の労働生産性は低い。18年でみると経済協力開発機構(OECD)加盟国中16位。00年は1位だったが転げ落ちるように下がっている。近年、生産現場ではロボット化やIoT化が進み、販売でもオンラインでのやり取りが日常風景になっている。だが、デジタル化が進んでも部品の受発注は旧態依然としている。特に部品加工を手掛ける2次、3次下請けではそれが顕著だ。

 低い生産性に加え、日本の生産年齢人口は減少し続けており人手不足に直面している。さらに20年度から働き方改革関連法が中小企業にも適用され月45時間を超える残業が原則、禁止された。八方ふさがりの製造業の調達現場。だが、ミスミは新サービスの鉱脈をここに見いだした。

 顧客はまず部品のCADデータをメヴィーのサイトにアップロードする。データには寸法や穴の径などが入力されているが、これをメヴィーの人工知能(AI)が読み取り、ものの数秒で自動で見積もりを出す。

 設計を変えていくと金額もそれに応じて増減。複雑加工であれば自動的に金額が上がる。CADソフトは米オートデスクや仏ダッソー・システムズなど多くの企業から販売されており、メーカーごとに利用ソフトはバラバラだがメヴィーは種類を問わない。

 金額を基に受発注が成立すると、データは自動的にミスミグループの部品加工メーカー、駿河精機(静岡市)の工場やミスミの協力工場へと飛ぶ。加工データが工場内のマシニングセンターや旋盤といった工作機械に入力されるや、切削加工を始める。終われば顧客に出荷される。見積もりから納入までは最短1日という。切削だけでなく板金加工にも対応。曲げや穴開け、金型を使ったプレスなど千両役者だ。

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