三重県松阪市で、地上設置型としては国内最大規模の風力発電所の建設計画が持ち上がり、地元が揺れている。事業者が住民説明会を後回しにして計画手続きを進めたため、「見切り発車」と反発した住民が生活や自然への影響を懸念。県も中止を含めた抜本的見直しを求めている。脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの重要性が増す中、専門家は「拙速な開発は自然や住環境を脅かしかねない」と警鐘を鳴らす。 (清水悠莉子)
この発電所は「三重松阪蓮(はちす)ウィンドファーム発電所(仮称)」。全国で自然エネルギー事業を展開する会社「リニューアブル・ジャパン」(東京)が、森林が広がる松阪市飯高地域を中心に計画している。「風況に恵まれている」という。発電機周辺一〜二キロ以内に住居九百戸以上や学校、医療機関、福祉施設がある。
リ社は六月、現地調査の協力を求めて一部地権者への訪問を開始。七月には、環境影響評価(アセスメント)の第一段階として、環境保全上の留意すべき点を記した「計画段階環境配慮書」を県と国に提出した。
地権者訪問で計画を知った住民は説明会を求めてきたが、開かれたのは今月上旬。計画手続きを優先するリ社の姿勢に「見切り発車だ。住民をないがしろにしている」と半世紀以上、飯高地域で暮らす五十代女性は憤る。説明会には住民約四十人が参加し、工事に伴う騒音や土砂崩れ、巨大構造物が山里の風景を変えることへの不安を訴えた。「地元に利益のないものなど持ってくるな」と反対の声も上がった。
計画段階環境配慮書に対し、九月末に出た知事意見は、工事の騒音や風車の影など「生活環境への重大な影響が懸念される」と指摘。イヌワシやクマタカなど生息する希少生物を念頭に「自然的・文化的な観点から保全優先度が極めて高い地域」とし、中止を含めた抜本的見直しを求めた。計画の初期段階としては異例の厳しい内容という。
リ社の担当者は本紙の取材などに対し、再エネの固定価格買い取り制度(FIT)の現行制度の適用を受けた上で「二十年間は事業を進めたい」と説明。ただ「地元の同意なしには進められない。住民らの意見を真摯(しんし)に受け止め見直しなども検討したい。断念も選択肢の一つ」と話している。
三重松阪蓮ウィンドファーム発電所(仮称) 三重県の松阪市と大台町にまたがる山地の尾根部の2カ所、計約7400ヘクタールに最大で発電機60基の設置を目指し、総出力は25万1000キロワットを見込む。現在、地上設置型の風力発電所で総出力が最も大きいのは、ウィンドファームつがる(青森県つがる市)で、38基で12万1600キロワット。
生態系分断など懸念
名古屋大大学院の香坂玲教授(環境政策論)の話 脱炭素宣言をした日本全体にとっては、再エネ発電施設の建設が進むのは大変喜ばしいが、大規模な開発は生物多様性の損失や生態系の分断などが心配される。気候変動と生態系、地域社会など、いずれもがプラスに向かうようバランスを取る必要がある。事業者は、手続きを急いで雑にならないよう、住民らにしっかり説明し、ゼロ・オプション(問題があった場合は事業を実施しない案)も含めて話し合うべきだ。
買い取り制度変更 駆け込み増加
風力発電所の建設に向けた環境影響評価(アセスメント)に関する手続きの件数は急増している。事業者が建設を急ぐ背景には、再エネの固定価格買い取り制度(FIT)の変更が迫っていることがある。変更すると買い取り価格が下がる可能性があり、収入が不安定になる。経済産業、環境両省の担当者は「駆け込み参入」とみている。
二〇一二年に導入された現行制度は、再エネ由来の電気を、原則として発電所の運転開始から二十年間、国が定めた価格で電力会社が買い取ることを義務付けた。事業者に安定収入を約束し、参入を促してきた。だが、高価格の買い取りは国民の負担増に。二〇年度の法改正で二二年度から価格を市場に連動させ再エネ由来以外の電気との平準化を図ることになった。風力の場合、事業者は、二二年度は移行期間としてFITを選択できるが、いずれは完全に移行する。
急増しているのは、環境アセスの第一段階として事業者が都道府県と国に出す「計画段階環境配慮書」の件数。二〇年度は四十件と前年度の約三倍になった。中部九県ではほぼ倍増し、三重県南伊勢町・大紀町、福井県高浜町・おおい町、石川県輪島市・能登町など計七件あった。
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