金曜ドラマ『最愛』(TBS系)が面白い。奥寺佐渡子、清水友佳子(『Nのために』は未参加)脚本、新井順子プロデュース、塚原あゆ子演出、『Nのために』、『夜行観覧車』、『リバース』(いずれもTBS系)という湊かなえ原作の3作品を手掛けた制作チームによって作られた濃密なサスペンスラブストーリーに圧倒されている。
何より魅力的なのは俳優たちだ。主人公・真田(朝宮)梨央を演じる吉高由里子は、明るく朗らかな青春時代の可愛らしさと、信念を貫き社長となった現代の美しさ、カッコよさと、時折見せる脆さなど、どの角度から見ても納得のヒロイン像である。そして松下洸平演じる大輝、井浦新演じる加瀬という、彼女を巡る男たちの魅力。『夢中さ、きみに。』(MBSほか)、『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレビ東京ほか)などで既に強烈な印象を与えていた高橋文哉が演じる梨央の弟・優の繊細な美しさからも目が離せない。
毎話、登場人物それぞれが「最も愛している人・もの」を独白する冒頭から始まる本作の何より興味深いことは、梨央と大輝、梨央と加瀬、梨央と優といったそれぞれの関係性が、まるでそれ単体で1本の映画ができそうなほどしっかりと確立されているということである。今回は、朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)以降、『MIU404』(TBS系)、『#リモラブ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)と優れた作品に多く出演し、着実なステップアップを重ね、視聴者の心をその都度掴んでいった松下洸平演じる“大ちゃん”こと大輝と、梨央の物語を紐解いていきたい。
視聴者が見た最初の真田梨央の姿は、学生時代の大輝から見た梨央の姿だった。電車を待つ人々の中で、彼女だけに焦点が当たっていて、その笑顔は一際輝いて見える。恋する人特有の、その人以外目に入らない「目」を通して描かれる梨央の姿は何より美しい。弟・優のために柵を軽やかに飛び越え、空から降ってくるかのような梨央と、それを驚きと羨望の眼差しで見つめる大輝の姿は、その後の2人の関係を決定づけるものであると言える。
梨央と大輝は、共に「走る」2人だ。どちらかが留まっていることがない。初回序盤において、駅伝の地区選考会で走る大輝を応援する側の梨央は、遅刻しそうになり、白川郷の広大な大地を自転車で駆け抜け、全速力で応援席まで突っ走る。そんな梨央の到着に合わせるように、今度は大輝たちのチームが走り出す。それぞれがたすきを繋ぐように走ることから「2006年岐阜県白川郷」の物語を始めた本作は、その後も「走る」2人を描き続ける。
青春時代の彼らの別れを描いた初回終盤においても、走る大輝の姿を、東京へと向かう車の中から懸命に見守っていた梨央が、居ても経ってもいられず彼がもっと見える場所へと走り、歩道橋の上からゴールする瞬間の彼を見つめる姿が描かれていた。そのことを知り、慌てて追いかけた大輝だが、既に彼女はいなくなった後だった。
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