原発の新増設計画が宙に浮いている。政府が22日に閣議決定したエネルギー基本計画では、原発を脱炭素電源として重視しながらも新増設方針を盛り込まなかった。自民党は衆院選の公約でも、産業界が求める新増設に直接触れていない。東京電力福島第一原発事故後、建設が中断したまま原発は工事再開のめどが立たず、地元経済の柱にしようとした自治体からは諦めの声が漏れる。(小野沢健太)
◆村の財政は原発頼み
「村の運営は原発が頼り。財政は苦しくなる一方で、このまま原発が動かず新設もされない状況が続くと、立ちゆかなくなる」。青森県東通村の村役場職員は危機感をあらわにした。
下北半島の北東部にある村は過疎化が進み、人口はピーク時の1960年から半減の約6000人。農業と漁業が主な産業で、村税収入は原発関連に大きく依存しており、福島第一原発事故前の2010年度に比べ、19年度は4割減った。
村内では、東京電力が原発の新設を計画。敷地に隣接して東北電力の東通原発1号機も立ち、さらに1基の増設計画がある。しかし、11年3月の福島事故後に東電の建設工事は止まったままで、東北電も新規制基準の審査が長引いて再稼働が見通せない。
事故を起こし、被災者への賠償を続ける東電は、東通原発を「原子力事業を世代を超えて支え続け得る重要な発電所」と位置付け、新設をあきらめていない。今年7月に公表した経営計画でも「信頼回復に全力で取り組み、その上で建設工事再開を目指す」と明記。信頼回復に向けた布石も着々と打っている。
3月、東電と村は「一般社団法人東通みらい共創協議会」を設立。インフラ整備や産業振興、福祉向上などを掲げ、昨年度は東電の拠出金から村の子ども医療費給付事業などに2億7000万円を充てた。東電は24年度までに計30億円を協議会に出す計画だ。
これとは別に、東電は企業版ふるさと納税として村に18、19年度に計4億円を寄付。東電青森事業本部は「村で今後も長く操業していくためには、地域貢献は必要」と説明する。
◆メーカーとの足並みに乱れ
地元の地ならしを図る東電だが、その先にはさらに大きな障壁が待ち構える。
福島第一原発の事故収束作業や賠償などに約16兆円の負担を背負う東電は、東通原発を単独ではなく、中部電力と原発メーカーの東芝、日立の4社で共同事業化したい考えだ。資金負担を減らし、世論の反発もかわす狙いがあるが、4社の足並みがそろわない。
4社は19年8月に共同事業化で合意。原発の建設や運営、廃炉までを効率的に進める体制を構築するという。ただ、メーカー側は技術維持には前向きだが、運転にはかかわりたくないのが本音。東芝関係者は「原発の運転に携わると、事故時の賠償も背負わされる。株主に説明できない」、日立関係者も「運転には関与しない」と断言する。
合意から2年以上過ぎても、4社で何をするのかはっきりしない。東芝関係者は「協議をしても将来像がなかなか見えてこない。難しい」と困惑気味。東電東通原発を誕生させる仕組みは、土台が揺らいでいる。
東通村役場の職員は、東電東通原発の必要性を説明した後、こう漏らした。「常識的に考えると、やっぱり実現は難しいと思う」
関連キーワード
からの記事と詳細 ( 宙に浮く原発の新増設計画 自民党は衆院選公約に盛り込まず、地元自治体からあきらめの声 - 東京新聞 )
https://ift.tt/3pq5qrz
0 Comments:
Post a Comment