
NHKと森下俊三経営委員長が視聴者から提訴された。かんぽ生命保険の不正販売報道を巡って、経営委が議事録を公開しないからだ。番組制作に干渉したのか、その検証には開示が不可欠だ。
この問題は二〇一八年四月「クローズアップ現代+(プラス)」が、かんぽ生命保険の不正販売を追及する番組を放送したことに端を発する。続編に向け、情報提供を呼びかける動画をネットで流したところ、日本郵政グループが抗議。経営委は当時の上田良一NHK会長を厳重注意した。
これは番組制作への介入ではないのか。放送法三二条は経営委が個別番組の編集に介入・干渉することを禁じているからだ。経営委の行動は越権行為の疑いがあり、同法にも触れかねない。
視聴者らはこのときの議事録開示を求めたが、経営委は「概要」のみの開示にとどめた。このため元裁判官や弁護士らでつくるNHKの第三者機関「情報公開・個人情報保護審議委員会」が審議。昨年五月と今年二月の二回にわたり、「議事録を全面開示せよ」と答申をしている。異例中の異例の出来事である。
放送法四一条は経営委員長に議事録の作成と公表を義務づけている。経営委はNHKの意思決定に関する最高機関であり、透明性を確保するためだ。開示の答申に長期間にわたって応じないのは、明らかに法や内規の逸脱でないか。
経営委員長は「非公表を前提とした会議だから公表できない」などと国会などで弁明したが、この論理はおかしい。仮に非公開で会議を開き、その席でNHK会長に対して、経営委が番組制作について批判し、影響力を行使すれば、番組制作と経営との分離という垣根は容易に崩れてしまう。
十四日に東京地裁に提訴した視聴者ら百四人にはNHKのOBも含まれている。訴状では受信契約に基づいて議事録の全面開示を求めており、それに応じないのは「不法行為」としている。
かんぽ生命保険の不正販売は一八年四月の放送以降も拡大した。社会不安を呼び起こした大きな問題であり、NHKには視聴者への説明責任が当然あるだろう。
番組が抗議や圧力にやすやすと屈せば、「自主自律」であるべき放送の前提が崩壊してしまう。経営委の介入・干渉の有無は十分に検証されねばならない。
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