BANDAI SPIRITS(BSP)は、2018年2月にバンダイナムコグループの再編により誕生した企業である。バンダイのトイホビー事業のうちハイターゲット向け商品を手掛けている部門に加えて、バンプレストのロト・新規事業やプライズ事業を移管。現在はバンダイナムコホールディングスの100%子会社として、ハイターゲット向け玩具、プラモデル、景品、雑貨などの企画開発・製造・販売を担当。純利益は19年3月期が65億3400万円、20年3月期が117億600万円、21年3月期が156億5200万円と推移している。
21年4月1日付で、BSPの代表取締役社長に就任したのが宇田川南欧氏である。これまでネットワークコンテンツ事業を中心に手掛け、バンダイナムコエンターテインメントでは初の女性取締役として、業績をけん引してきた。47歳にしてBSPのトップに就任した宇田川氏に、現在の会社の状況、そして今後の動きについて話を聞いた(全2回の1回目/後編に続く)。
プロフィール
宇田川 南欧(うだがわ なお)
1974年1月生まれ 東京都出身
1994年4月 バンダイ入社
2000年9月 バンダイネットワークス転籍
2009年4月 バンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)転籍
2010年4月 同社第2スタジオ 2-4プロダクション ゼネラルマネージャー
2014年4月 同社執行役員 第2事業本部副本部長
2015年4月 バンダイナムコエンターテインメント取締役
2018年4月 同社常務取締役、バンダイ取締役(非常勤)
2021年4月 BANDAI SPIRITS代表取締役社長
BANDAI SPIRITSが目指す“ブランド力の強化”
BSP誕生のきっかけは、当時のバンダイの事業規模が拡大し続けた点にある。商品のターゲットが非常に幅広く、商品開発だけではなくマーケティングなどさまざまな側面でターゲットに応じたアプローチが必要になるため、バンダイだけで全てを手掛けることには限界があった。
「バンダイが大きくなりすぎたこともあって、会社を分けてターゲットを明確化し、それぞれの成長を目指そうとしたのがBSP設立のきっかけです。事業体がいくつかあるのを前提に、それぞれの機動力をあげようという考えです」
BSPとバンダイとの違いでいえば、一番分かりやすいのがターゲットの年齢層が高いところ。ガンプラに代表されるプラモデルやS.H.Figuarts、超合金といった、大人向けのブランドを数多く抱えているのがBSPの特徴だ。宇田川氏が大きな目標として掲げるのが、このブランド力の強化である。
「現在一番力を入れているのは、ブランドの強化です。ガンプラ、TAMASHII NATIONS、一番くじ、バンプレスト(プライズ)など、そういったブランドごとの強化はBSP設立からの3年間での成果です。高品質で『これであれば間違いない』というところを、どれだけ深く届けられるかに注力してきました。また、バンダイ本体と離れたことで独自の品質基準を持て、よりキャラクターのイメージに近い商品を提供できるようになりました」
従来のバンダイの事業でいえば、キャラクターやIPをさまざまな商品として展開し、時流に応じて販売することが主軸となっていた。それに対してBSPでは「IPではなく各ブランドの印象付け」という、別の軸での商品展開を行っていたことになる。その意図はどこにあるのか。
「定番キャラクターを商品化するのはBSPの得意なところではありますが、キャラクター商品にはどうしても旬やブームが存在します。その中で購入を継続してもらうために、IPの軸だけではなくブランドという軸を打ち出す必要があります」
「例えば、あるキャラクターが好きで商品を購入した方に『ここのブランドは高品質だ』と思ってもらえたら、他商品の購入も促せます。キャラクターは縦軸で、ブランドは横軸です。ブランド軸がしっかりあれば、IP軸の揺れ動きや変化に対応できます」
どうしても流行り廃りがあるのがキャラクタービジネスの弱点であり、ブランド力の強化はこの弱点を克服するためのキーポイントとなる。そして、海外展開に関しても重要な意味を持つ。
「ブランドで各カテゴリーのナンバーワンを取るのが、海外展開を考えると特に重要です。国内でブランドが浸透しているものを海外に持っていったとき、『同じキャラ商品でもこのブランドのものは違う』と思ってもらうことが、そのまま競争力につながります。また、どの地域に何を展開するかを考える際にも、やはり一貫したブランドをどれだけ印象付けられているかが勝負になります」
ブランドイメージの強化と並んで、IPの新規開発も重要なテーマだ。6月8日にドラマが最終話を迎えた「ガールガンレディ」をはじめ、今春以降、BSPで商品展開される新規IPやアニメ作品が多数発表された。注目したいのは、いずれもガンダムなど既存のIPとは異なるものが発表されたこと、そしてプラモデルでの展開が前提になっていたことである。
「プラモデルについては国内に自社工場があり、生産体制が整っています。“BANDAI SPIRITSのプラモデル”はこれまでの蓄積からブランド力もあります。今のホビーの分野ではガンダムが中心になっているところがあり、将来的にプラモデルで遊んでもらう層を増やすには新しいIPを育てることも不可欠だと思っています。とにかく、やっていかないと増えていかないものなので。今春に発表されたものは、その取り組みの一環になりますね」
新型コロナウイルスは何をどう変えたのか
また、現在のBSPにとって見過ごせないのが、新型コロナウイルスの影響だ。玩具・プラモデルといったジャンルにとって結果的には新型コロナウイルスが追い風となったところもあるが、しかし有形無形の悪影響もあったのは事実である。
「昨年の春頃は、工場も止まっているし出荷もできないし、そもそもお店が開いていないという大変な状態でした。ただ、お客さまも外に出られなくて身近なエンターテインメントを求めていたところがあるのか、例えばコンビニで買える一番くじは好評でした。ガンプラも好調で、キットはもちろんですが、印象的だったのは工具がよく売れたことです。それだけ初めて作る人や、しばらく作っていなかった人が多かったのでしょう」
デジタルの分野においても、新型コロナの影響が特に強く見られた。バンダイナムコグループは「プレミアムバンダイ」というeコマースを抱えており、そこでの売り上げが海外の受注も含めて好調。さらに新製品発表などのオンライン化を促進しており、5月には緊急事態宣言もあり静岡ホビーショーでの展示を取りやめた代わりに、バンダイホビーサイトにて「HOBBY NEXT PHASE 2021 SPRING」を開催。Web上でのイベント開催を強化している。
「イベントをオンライン化することで、その場に来られる人以外にも見ていただけることになりました。コロナが収まったあとも完全に元に戻すのではなく、このような気付きや便利だったことは継続する方針です。『交通費を払って現地に足を運ぶよりも、家でゆっくり見たい』といった需要にも応えていきたい」
「バーチャルイベントはワールドワイドに事業を展開するためにも効果的です。一カ所に拠点を構えるのではなく、海外も含めて多くの人に新製品を見てもらうことで、プロモーションの機会を広げていきたい。とはいえ、実際にお客さまや小売店の方とお会いして話すことで距離感が縮まるのは確かなので、イベントに関しては今後もハイブリッドを進めていきます」
今後の鍵は海外展開。事業部を横断して取り組む
宇田川氏が考える今後のBSPの事業展開の鍵は、海外での売り上げを向上させることにある。近年のBSPは定番IPに加え、マーベル系のアメコミ映画やスター・ウォーズなどの海外IPを積極的に商品化している点からもそれは伺える。
「グローバル展開できるIPの商品化は、BSP全体として今後も狙っていきます。現在、海外での売り上げは全体の35%にとどまっているんですが、これをまずは40%まで向上させたい。グローバルな市場と比べると国内はほんの一部なので、そこは全社で取り組む課題です」
バンダイナムコグループが21年4月に実施したユニット体制の再編も、海外展開も見越したものだった。これまでは「トイホビー」「ネットワークエンターテインメント」「リアルエンターテインメント」「映像音楽プロデュース」「IPクリエイション」の5ユニットだったが、「トイホビー」と「ネットワークエンターテインメント」、「映像音楽プロデュース」と「IPクリエイション」が統合され、3ユニットに再編された。これによって、事業分野をまたいだリソースの投入や、海外展開に関する機動力の向上などを見込んでいる。
「例えば、世界展開するIPを定めて異分野がまとまって行動することをこれまではなかなかできませんでした。投資に関しても各社がそれぞれの事業拡大を目的にしていました。しかし、今後はグループとしてどこにお金やリソースを投入するかを決められます」
ユニット統合の大きな目標が、どうしても事業部ごとの縦割りになりがちだった商品開発やプロモーションを、各分野を横断してできるようになることだ。社長というポジションは、そのために大ナタを振るえる立場でもある。
「社員からすると、自分の仕事があって自分が所属する会社があってということになるので、目の前の仕事に集中しがちです。ただ、グループがユニットとしてどうなっていくかを考えるにはより大きな視点が必要になるので、私はそこを先導しなくてはいけないと思っています。当社グループの強みでもありますが、事業部が強くて連携という当たり前のことが全然できなかったんですよね……」
「考えてみれば、世界的に見てもこれだけいろいろな出口を持っているグループ企業はあまりないんです。だったら、もうグループ全社を横断して全部やろうと。流行のIPを商品化するのは、グループ全体的に得意なんですよ。BSPで一番くじやプライズを手掛けている事業部も人気になりそうなIPを見つけてくるのは早くて、それでファンがついたところで他の事業部から商品化することはよくあります。例えばそういった取り組みを、もっと大規模に展開したい」
宇田川氏の話からは、「ブランド力の強化と独自のIPを新規開発し、関係各社を横断しながら海外への展開を図る」という方針が見えてきた。“世界一の総合ホビーエンターテインメント企業”を掲げるBSPの今後に注目したい。後編では、バンダイに入社後、数度の転籍を経て、BSP社長に就任した宇田川氏の軌跡に迫る。
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