Wednesday, June 23, 2021

全社DX戦略の推進へ向けて:その推進計画と組織マネジメント - EnterpriseZine

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全社DX戦略とは

 企業におけるDXには、個別のイノベーション案件に関わる活動領域と、全社DX戦略に関わる活動領域がある。特定のプロジェクトのみを対象とする場合は案件主体で推進すれば良いが、企業レベルでのデジタルシフトを意図する場合は、DX戦略を経営方針に盛り込み全社的な推進/管理体制を構築しなければならない。この時、DX推進プロセスの全体像は図1に示される。

図1 DXの全体像 筆者作成
図1 DXの全体像 筆者作成

 全社DX戦略の各フェーズの活動について順に見てみよう。

  • 方針立案:現状認識と戦略目標の観点からDX推進方針を立案する。DXの定義、目的やビジョン、スコープの設定、主要課題の整理といったワークもここに含まれる。デジタルビジネスへの感度や推進能力は企業によって格差が大きい。成熟度評価などを通じて、業界内での自社のポジショニングを把握しておくことも有益だ。

  • 全体計画:主要課題を特定し、注力すべき戦略テーマと主要施策を設定することが計画化のポイントとなる。企業によっては、すでに進行中のAIプロジェクトの事業化が喫緊課題になるかも知れないし、デジタル人材の獲得・育成に関わる環境構築が課題になるかも知れない。あるいは、イノベーション投資評価の制度化を急ぐ場合もあるだろう。ビジネス上の影響が大きい優先すべき戦略テーマを設定する。そのうえで推進体制、役割、ゴールを定め、全体ロードマップを描くことが求められる。

  • PMO:ここからは実行フェーズとなる。イノベーション案件は複数を同時進行で進めることが推奨され(実際もその例が多い)、それらを包括的に管理することも求められる。ここでいうPMOとはプログラム・マネジメント・オフィスである。プロジェクト管理の上位に位置し、プロジェクト群を俯瞰的に統括する役割を担う。高頻度で進捗状況やマイルストーン達成度を評価し、必要に応じて方針転換やプロジェクトの統合・分離、さらには存続・撤退も見据えてコントロールする。DXで用いられるビジネス開発方法論であるリーンスタートアップでは、コストを抑え、市場反応を見て、短期サイクルでの事業ポートフォリオ評価を行う。事業化の初期段階に見られがちな過剰な設備投資や大幅な手戻りといったムダを抑制することも、PMOの重要な役割となる。

  • 環境構築:DX推進における全社的な環境整備の必要性は、企業のビジネス方針や組織風土によって大きく異なる。イノベーションを歓迎する文化(失敗を許容するなど)の企業もあれば、変化を好まない官僚的な体質の企業もある。前者は、すでに一定の環境が備わっている可能性が高いが、後者の場合は、全社的な構造改革を要することになるかも知れない。環境には幾つかの観点があるが、人材や組織については、デジタル人材の獲得・育成、外部活用、子会社化施策などがあげられる。技術インフラの観点では、PaaS活用、共創ラボの設置、サイバーセキュリティ対策など。マネジメント面では、投資予算化ルールやKPI策定が重要な視点となりうる。さらに、推進チームへの適切な権限や待遇へ向けた制度設計やサポート体制の構築も軽視してはならない。

 全社DX戦略を展開することで、社内体制が整い、各イノベーション案件をより円滑に進行できるようになる。

 さて、このようにDX推進プロセスは、全社DX戦略と個別案件の集合体として捉えられるが、環境構築を図るにせよ、特定分野のイノベーションを進めるにせよ、それらは「プロジェクト」として管理されるのが通例であった。しかし、これらの取り組みは、組織再編やビジネス刷新といった大きな課題に関わるものも多く、従来型のプロジェクト管理手法での管理だけでは、必ずしも間に合わず、十分な成果も期待できない。DXは企業をデジタルネイティブ化するチャレンジであり、関与者のマインドシフトを求めるハイレベルな取り組みでもある。変化への期待や要求は、時に抵抗勢力を誘発し、社内外の反発を招くことにもつながる。そのため、DXの成功確度を高めるには「全社的な組織変革」を戦略課題として位置付ける必要がある。この時、重視すべきキーワードが、企業カルチャーや従業員意識を理想的な状態へ移行させる組織変革、すなわちチェンジマネジメントである。

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