Friday, March 19, 2021

幻の巨大ダム計画「関東の琵琶湖」 駅も水没予定だった - 朝日新聞デジタル

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 「東京都のみならず関東一円の水問題解決の本命」「何とか人間の力で琵琶湖に代わる貯水池を」……。戦前、戦後の電力業界をリードし、「電力の鬼」と呼ばれた松永安左エ門(1875~1971)が晩年、月刊誌に寄せた文章だ。首都圏の水がめ、洪水抑制の切り札のように語られ、昨年3月に完成した八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)のことではない。松永はその8倍の貯水量のダム建設により、関西における琵琶湖のような存在の人造湖の出現を夢見た。

 地理の教科書でも有名な河岸段丘がある群馬県沼田市。NHKの人気番組「ブラタモリ」でも2016年2月、タモリさんが地形好きに目覚めた場所として紹介された。この河岸段丘を湖岸に変える沼田ダム計画を、松永が率いたシンクタンク「産業計画会議」が1959年に国へ勧告した。同会議は東名、名神の両高速道路建設の推進役でもあった。

 沼田ダム計画の源流は戦後間もなく。47年、カスリーン台風に襲われた利根川流域で起きた土石流や洪水で、少なくとも約1100人が犠牲になった。これを受けた国の治水計画に盛られた。松永らは、首都圏の人口急増に伴う生活用水や農業用水の需要増に応じたダム活用に焦点を当て、規模を膨らませた。

 勧告をまとめた冊子「東京の水は利根川から」は、大胆な計画を記す。利根川は洪水を繰り返しているとし、「水が余っている。(沼田ダムで)東京の水不足は根本的に解決される」と必要性を訴えた。ダムには水力発電所も設けるほか、「風光のいい湖水ができれば山あり、水あり、温泉ありの大観光地となり、沼田市の発展の大きな原動力となる」とした。

 総貯水量の9億トンは、現在国内最大の徳山ダム(岐阜県揖斐川町、6億6千万トン)を大きく上回る。ダム湖の面積は2700ヘクタールで芦ノ湖(神奈川県箱根町)の4倍。事業費は1629億円で、消費者物価指数などによる現在の貨幣価値で1兆円近くになった可能性もある。国内最高額とされるのは八ツ場ダムの5320億円だ。

 住民らは猛烈な反対運動を起こし、市や県も容認しなかった。当時の国鉄沼田駅などを含む2千戸以上の人家が水没する見通しが示され、あまりに犠牲が大きかったからだ。

 松永が亡くなった翌72年、田中角栄内閣は沼田ダムの計画中止を決めた。当時は成田空港の建設や東京湾埋め立ての反対運動も盛り上がっていた。沼田ダムの歴史に詳しい沼田市歴史資料館の高山正館長(63)は「沼田ダムに政治的エネルギーを使うことが得策ではないと判断したのだろう」とみる。

 計画中止から間もなく50年。高山さんによると、ダム建設の水没予定地を通る国鉄上越線の付け替えルートをなぞるように関越道が整備され、「新沼田駅」予定地近くに沼田インターチェンジ(IC)が建設された。沼田ダム予定地を迂回(うかい)するような前橋IC―湯沢IC間は85年開通だが、高山さんは「計画当時は沼田ダム構想が消えておらず、ダムを避ける必要があった」と説明する。沼田駅周辺の街路が細く複雑に入り組むのも、ダム計画による整備の遅れだという。「ダムの計画で地元地域が翻弄(ほんろう)されるのは常。幻となった今も尾を引いている」(森岡航平)

     ◇

〈沼田市歴史資料館〉沼田ダム計画を常設展示で解説している。資料館は午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)、祝日を除く水曜と、祝日の翌日、年末年始は休館。一般220円、中学生以下無料。問い合わせは資料館(0278・23・7565)。

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