NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の第43回「闇に光る樹」は、明智光秀の丹波計略、本願寺の降参、武田氏の滅亡など、難局を乗り切った場面を描いていた。むしろ、主題は光秀と織田信長とのますます深まる対立だ。終盤で注目されたのは、ようやく登場した森蘭丸だった。
■第43回「闇に光る樹」を振り返って
第43回「闇に光る樹」の内容を森蘭丸の登場場面を中心に振り返っておこう。
天正10年(1582)3月、織田信長(役・染谷将太さん)と徳川家康(役・風間俊介さん)の軍勢は念願の武田氏の討伐を果たした。信濃諏訪で明智光秀(役・長谷川博己さん)ともども喜びを分かち合う。さらに光秀と家康は、領国経営のコツなどについて親しく会話を交わす。この様子をのぞき見ていたのが森蘭丸(役・板垣瑞生さん)だ。蘭丸は信長に、家康側が祝宴の饗応(きょうおう)役に光秀を指名してきたことを報告。信長から理由を問われた蘭丸は、2人の親しげな様子を伝えた。安土城で宴がはじまると、信長は「膳が違う」と激怒。慌てた光秀は碗汁を信長にかけてしまい、信長に蹴り飛ばされる。光秀はつかみかかる蘭丸を振り払い、激しい形相で信長をにらみつけた。
今回は、森蘭丸について深掘りすることにしよう。
■そもそも森家とは
森蘭丸といえば、織田信長の小姓(主君の身辺で雑用をつとめる者)として知られている。
森氏の祖は、清和源氏源義家の六男・義隆である。相模国森荘(神奈川県厚木市)を本拠としたので、森を名乗るようになった。美濃羽栗郡蓮台(岐阜県笠松町)に移ったのは、可行(よしゆき。1494~1571)の代である。可行は織田信秀に仕え、その没後は子の信長に仕えた。
可行の死後、森家の家督を継いだのが可成(よしなり。1523~70)である。可成は信長のもとで各地を転戦し、永禄3年(1560)の桶狭間の戦いで大いに軍功を挙げた。金山城(岐阜県可児市)に本拠を移したのは、永禄8年(1565)のことだ。
可成は元亀元年(1570)6月の姉川の戦いでも活躍したが、同年9月に宇佐山城(滋賀県大津市)で浅井・朝倉連合軍と戦い、無念にも戦死したのである。
先んじて、元亀元年(1570)4月に可成の嫡男・可隆(1523~70)が浅井・朝倉連合軍との戦いで戦死していたので、森家の家督は次男の長可(1558~84)が継いだ。蘭丸は、長可の弟である。
■森蘭丸のこと
永禄8年(1565)、蘭丸は可成の三男として誕生した。母は、妙向尼という。実名は、成利(なりとし)である。史料によっては「蘭丸」ではなく、単に「乱」あるいは「乱法師」と書かれることがある(以下、蘭丸で統一)。
蘭丸の初見史料は天正7年(1579)4月のもので、信長から摂津の塩川長満のもとへ使者として派遣されたことが記されている(『信長公記』)。以降の蘭丸は、おおむね信長の使者、大名が出仕したときの奏者、客の饗応などに従事するが、それは亡くなる天正10年(1582)6月までの3年余に限られている。
蘭丸は、信長の寵愛(ちょうあい)を受けていた。一説によると、蘭丸は信長と衆道(男色)の関係にあったといわれているが、確固たる証拠があるわけではない。
蘭丸は信長から小姓として重用されながらも、与えられた領地はわずか近江国内に500石しか与えられなかったという(『尊経閣文庫所蔵文書』)。小姓であるがゆえ、小禄だったのは、いたしかたないだろう。
ところが、天正10年(1582)3月の武田氏滅亡後、兄の長可が海津城(長野市)に移ったので、蘭丸は美濃金山(岐阜県可児市)と米田島(同美濃加茂市)を拝領した(『信長公記』)。その知行は5万石ともいわれており、破格の扱いである。
天正10年(1582)5月29日、蘭丸は信長に随行して上洛した。そして、同年6月2日の本能寺の変において、明智軍の安田国継(天野源右衛門)に討ち取られたのである。その際、弟の坊丸と力丸もともに討ち死にした。3人の墓は、可成寺(岐阜県可児市)にある。
なお、一説によると、天正10年(1582)5月に光秀が安土で家康をもてなした際、信長からお粗末な饗応ぶりを激しく叱責されたという。光秀は反省するそぶりを見せなかったので、信長は光秀の頭を打つよう家臣に命じた。しかし、家臣から名乗り出る者はなかった。すると、蘭丸が進み出て光秀の頭を鉄扇で打ったという逸話がある。
この逸話は光秀が信長に怨恨を抱いたという根拠とされるが、実際は単なる逸話の類にすぎず、たしかな史料に書かれているわけではない。したがって、史実とはみなし難いといえよう。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】
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