これまでに読んだ本は1万冊以上、訪れた世界の都市は1200以上。「現代の知の巨人」と呼ばれる出口治明さんが、「教養としての地政学」を、分かりやすい言葉で説き起こす。 【著者近影】出口治明氏[立命館アジア太平洋大学(APU)学長] 第1回は、「地政学」の定義を『広辞苑』で調べてみる。そこから分かるのは「ナチスに利用された学問」という事実。 地政学には、国家権力に深く関わるイメージがある。 しかし、「地政学とは、本来、天下国家を論じる学問ではなく、人間の生きる知恵と関係するような学問だ」と、出口さんは考える。 * * * 表日本、裏日本という言葉があります。明治時代以降、日本の近代化が進む過程で、その中心が太平洋側の地域だったので、そこを表日本と呼びました。それに応じて、日本海側の地域を裏日本と呼んだのです。 国土に表と裏をつくる、無神経な言葉でした。 しかも、たいへん短絡的な発想でもありました。アヘン戦争以前、大陸に中国という世界最強の国家が存在していた時代は、日本の表玄関はむしろ日本海側だったのですから。 ひとつの国家や民族の帰趨(きすう)は、その国の内部事情だけで完結するのではありません。自分の国が、いかなる国家・地域や民族と接しているかに大きく影響されます。それだけではなく、ひとつの国がいかなる地理的な環境下に存在しているかも無視できない問題です。大河があれば氾濫を恐れ、砂漠が多ければ水不足を恐れるごとく。人間の歴史を見ると、多くの民族や国家が与えられた自然条件の中で、知恵を絞って生き抜いてきました。 最近の世界は多事多難な時代を迎えているように見えます。
新型コロナウイルスによるパンデミックが起こっている現在、大国も小国も自国の利益を露骨に主張する場面が目立ちます。そのことも影響して、宗教問題や難民問題が国際的な悲劇を招くケースも増加しています。 振り返ってみれば、ふたつの世界大戦が終わり、東西冷戦の終結を経て、世界はひとつになり、平和になるかと思われました。そして、情報化時代を経て新しい文明の発達は、IT(情報技術)からAI(人工知能)へと、画期的な人類の繁栄の地平線を創造しようとしているかのようでした。しかし、「9・11」やリーマンショック、コロナ禍などの到来で世界は暗転したかのようです。 そういう時代背景の中で、国家も人々も新しい次の時代に適応するアイデンティティを探し始めているのが、現代という時代なのかもしれません。 「我が国を地政学的に考えれば」 最近の国際政治に関係する座談会や討論会などで、そのような発言を聞く機会が多いように思います。 地政学は、ひと昔前に、ドイツや日本を中心に、悪い意味で一世を風靡(ふうび)した学問です。文字通り、地理と政治学に関する学問なのですが、再び世界的に注目されています。それは、ひとつの変革期を迎えようとしている時代に、自分の国が世界の中でいかなる位置づけにあるかを、地理的にも政治的にも確認したいからでしょうか? 地政学とは、本来、天下国家を論じる学問ではなく、人間の生きる知恵と関係するような学問だと僕は考えます。そのあたりのことを中心に話したいと思います。 ●『広辞苑』で振り返る、地政学の定義 話の順序として、最初に地政学とは常識的にはどのような学問として紹介されているのかを、『広辞苑』(2018年発売、第七版、岩波書店)から引用します。 「地政学(Geopolitik ドイツ)政治現象と地理的条件との関係を研究する学問。スウェーデンのチェレン(一八六四-一九二二)が首唱。主にドイツにおいて第一次世界大戦後の政治的関心と結びつき、ハウスホーファー(一八六九-一九四六)によって発展、民族の生存圏の主張がナチスに利用された。地政治学」 いくつかの点を補足します。
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