Tuesday, January 5, 2021

オックスフォード大学のシニア・リサーチャーに聞く! 丑年にこそ考えたい牛肉と環境問題。 - VOGUE JAPAN

terasibon.blogspot.com

牛肉生産はサステナブルになり得ない?

Photo: Getty Images

──サステナビリティに考慮してヴィーガンベジタリアンになる人が増えていますが、なぜ牛肉や乳製品はこれほど気候変動において問題視されているのでしょう?

食料システムは、世界の温室効果ガスのおよそ3分の1を排出しているとも言われますが、ほとんどの国ではその50~80%以上が動物由来の食料を生産するときに排出されます。そのなかでも特に多くの温室効果ガスを排出するのが牛肉と乳製品なのです。

これには主に3つの理由があります。まず、牛をはじめとする反芻動物は消化の過程で温室効果の強いメタンガスを排出します。また、牛の飼育には膨大な量の飼料が使われますが、その生産に用いられる肥料の多くも一酸化二窒素と呼ばれる温室効果ガスを発生させます。さらに、飼料の生産や放牧のために行なわれる森林伐採も二酸化炭素を増やす原因です。これらの要素が積みあがって、反芻動物の飼育は多くの温室効果ガスを発生させるのです。

──国によって肉牛の生産方法は違います。発生する温室効果ガスの量も、それに応じて変わりますよね。

与える飼料の種類や飼育方法によって、畜産の過程で発生する温室効果ガスの発生量は大きく変わります。また、乳牛と肉牛を分けずに飼育する場合は、同じ牛から乳製品と牛肉を得られるので数字上はキロ当たりの温室効果ガス排出量も減ることになります。

ただし、いかに飼育方法を変えようと、牛肉をほかの食料ほどサステナブルな食材にすることはできません。牛肉はどんなに効率的に生産しても、豆類などの植物性タンパク質が含まれる食材の50倍から100倍の温室効果ガスを排出します。同じ肉で比べてみても、豚肉や鶏肉の約5倍から10倍です。これは豚や鶏がメタンガスを排出せず、必要な飼料が少ないからです。

──最近では、牛のげっぷやおならから出るメタンガスを減らす新しい技術の開発なども進んでいますが、こうした技術はいかがでしょう?

例えば、藻類を与えることでメタンガスの発生を抑えようという取り組みなどがあります。ただ、現時点でその削減率は30~60%。数字だけ見れば大きく減らすことが可能にも感じますが、牛肉生産をサステイナブルなものにするには到底足りないのです。

代替肉の思わぬ注意点。

Photo: Getty Images

──いまは生産方法の如何にかかわらず、牛肉の消費量を減らさないといけない、ということですね。

そのとおりです。例えば、日本は欧米諸国に比べて牛肉の消費量が少ないですが、わたしたちの試算では、たとえ世界中の人が日本人と同じような食生活をしたとしても、気候変動を止められるレベルの2倍の温室効果ガスを排出するという結果になりました。

──その試算は、輸出入なども含めたものなのでしょうか?

サプライチェーン全体を見た消費ベースの計算なので、含まれています。例えば、ラテンアメリカで生産された肉を日本が輸入し国内で消費すれば、その生産や輸送で排出された温室効果ガスはすべて日本が排出したものとして換算されます。

──なるほど。地産地消はサステナビリティにおいてカギとされていますが、それは食料においても同じでしょうか?

地産地消に関する議論は多くありますね。ただ、食料に限れば、輸送で排出される温室効果ガスは実は全体のごくわずかです。これは、食料は比較的多くの量を一度に輸送できることに由来します。つまり、カーボンフットプリントの観点だけで言えば、食糧の地産地消はそれほど大きな効果を出さないということになります。ですから、いちばん大切なのは何をどのくらい食べるかです。

──代替肉はどうでしょう? 植物由来のプラントベースミートや、動物細胞を人工的に培養してつくる培養肉など、従来の肉の代替品が開発されています。

プラントベースミートは、大豆などカーボンフットプリントが著しく低い原材料を使ってつくればサステナブルと言えますし、栄養価も高いです。培養肉についてはまだ環境への影響が十分に明らかにされていません。いま出ている試算では、「効率的」に生産された牛肉と同じくらいの温室効果ガスの排出量とされています。培養肉の生産過程で発生する温室効果ガスのほとんどは、生産に必要なエネルギーからくるものなので、クリーンエネルギーを促進できれば温室効果ガスは減らせるかもしれません。それでも、現時点の技術ではカーボンフットプリントがかなり高いと言えるでしょう。

ちなみに、もともとカーボンフットプリントが低い鶏肉などの食材を培養肉に代替すると、現時点のエネルギー供給システムや技術では、むしろ温室効果ガスの排出量が増えてしまう可能性が高いことも留意しなくてはなりません。また、近年の研究では赤身肉の食べすぎは癌や心臓疾患、糖尿病など健康上のリスクを高めると言われていますが、赤身肉を培養肉に代替したところで、こうしたリスクが低くなるとは限らないことも注意すべきでしょう。

日本人は先祖に学ぼう!

Photo: Getty Images

──健康かつ環境に良い食生活のために、日本で生活するわたしたちが個人として改善できることはありますか?

日本の平均的な消費量を考えると、赤身肉(牛肉または豚肉)を週1食にとどめ、野菜や果物を現在の2倍ほど摂取するのがよいでしょう。乳製品は現在のままでもサステナブルな値にあると言えます。卵は少し食べ過ぎの傾向があるようです。魚介類の摂取量はかなり多いので、サステナブルな生産がされているか注意する必要があります。

また日本人は白米の消費が多いようですが、玄米へスイッチすることをおすすめします。日本は全粒穀物の消費がほぼないに等しいので、これを変えるだけで健康上も大きな効果が期待できるでしょう。

もともと豆類の摂取量は多い傾向にありますが、さらに摂取量を増やすのがよいです。また、ナッツは大幅に増やすことをおすすめします。砂糖は世界保健機関の基準に照らすと少々とりすぎなので、減らしたほうがよいでしょう。また、日本はじわじわと肥満傾向も高まっているようなので、全体的に食べすぎにも注意です。

──できることがたくさんありますね(笑) 。他国にお手本にできる食生活はありますか?

日本は自国の伝統に学ぶのがベストです。他国に比べて植物由来の食品と魚介類が多く、ほかの動物由来の食品の摂取量はかなり低く押さえられています。これはサステナブルかつ健康的な食生活と言えます。ご先祖様たちの食文化を現代風に改良するなどして実践するのがよいでしょう。

サステナブルな選択肢を手に入れやすく。

──社会として、よりサステナブルな食生活を促進するにはどうすればよいでしょう?

公衆衛生の分野でよく議論されるのは「食環境」です。食環境とは、食物へのアクセスと情報へのアクセス、そして両者の統合のことです。つまり、市場にある食材やその価格、食事に関する広告など、食を取り巻くすべてがその人の食生活に影響を与えるのです。逆に言うと、人々にサステナブルかつ健康的な食事をしてもらうためには、それらをすべて検討し直したり変えなくてはいけない、ということです。

街を歩いていて目にする食事や食にまつわる広告が高度に加工された動物由来の不健康なものばかりであれば、それ以外の選択肢にたどり着くことが難しくなります。健康的な食品の価格を下げることから、学校や企業の食堂の食生活改善、環境負荷が高い食品に表示をつけることまで、かなり積極的な政策や施策が必要となるでしょう。そして何よりも大事なのは、サステナブルで健康な食事の選択肢を、最も手に入りやすく低価格な食事の選択肢にすることなのです。

Text: Asuka Kawanabe

Let's block ads! (Why?)


からの記事と詳細 ( オックスフォード大学のシニア・リサーチャーに聞く! 丑年にこそ考えたい牛肉と環境問題。 - VOGUE JAPAN )
https://ift.tt/3osRNEo
Share:

Related Posts:

0 Comments:

Post a Comment