Saturday, December 5, 2020

クラウン SUV化は吉か凶か - auone.jp

 1955年に登場して以降、トヨタ自動車の“顔役”として存続し続けてきたラグジュアリーセダン「クラウン」が消滅するというニュースが11月に自動車業界を駆け巡った。ブランド自体は残すものの、SUV化するのだという。一体どんなクルマに変貌するのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が予測する。

【写真】歴史を感じる初代クラウン

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「クラウン消滅」初出記事の発信元は中日新聞で、記事内容も次期型はSUV「ハイランダー」とプラットフォームと共有、北米でも販売等々、かなり具体的なものだった。

 トヨタは「将来の商品計画についてはお話できない」と表明しているが、追取材してみたところ、どうやら最近トヨタグループ内で行われた大規模集会でトヨタ側から出た話だったらしい。そうであるならば、60年以上、15世代にわたって継承されてきた様式であるクラウンセダンの消滅は確定とみていい。

 トヨタがこの決断を下したのは無理からぬこと。クラウンの販売台数はこのところ急落を続けていた。

 今年の1~10月の合計販売台数は約1万8600台。11月、12月と頑張っても、21世紀のワーストだった2017年(約2万9085台)のレコードを大幅に更新するのはもはや確実な情勢だ。現行の15世代クラウンが2018年6月に発売されてからまだ2年半。いくら何でも早すぎる失速である。もはや、この流れは跳ね返せないと踏んだのであろう。

 この急激な販売状況の悪化はなぜ起こったのか。もちろん昨今のセダン衰退の影響も少なからずある。が、クラウンの場合はそればかりではない。これまで四半世紀にわたってクラウンの課題であり続けてきたユーザーの平均年齢の若返りを結局果たすことができなかったことが致命傷となった。

「きんつばデザイン」と呼ばれた昭和のクラウン

 クラウンはもともと“日本最適化”が至上命題の高級サルーンで、全幅は1.8mジャストと、全長4.9m級のモデルとしては狭い。

 この全幅は日本で使いやすいサイズというふわっとした説明がなされることが多いが、ビタ1ミリはみ出さないのには明瞭な理由がある。名誉会長の豊田章一郎氏に尋ねたところ、

「実はウチが使っている銀座のある駐車場が全幅1.8mまでと決まっていてね、そこに停められるように3ナンバーになってもそれ以上は広くしないということにしたんだよ」

 と、なるほどクラウンのような歴史を踏んできたモデルならそういうこともあるのだろうと妙に納得させられるような答えが返ってきた。カネにモノを言わせて駐車場の1台あたりのスペースを拡幅させなかったあたり、謙譲が美徳とされていた牧歌的な時代が偲ばれるところだ。

 その1.8m縛りは、高級車にとってはアゲインストで、どうしてもひょろ長く、痩せて見えてしまう。かつてクラウンが5ナンバーボディを基本としていた時も同じような難しさは抱えていた。

 寸法の枠ギリギリにデザインするため、どうしても小手先のデザインでごまかすしかなくなる。昭和時代、トヨタ社内では四角に切り落とした和菓子になぞらえ、「きんつばデザイン」と呼ばれていたという。1.8m縛りもまた、それと似たようなデザイン上の制約となっている。

 それでも、細身なりにスタイリッシュなデザイン、深みのある走り味、乗る人を感心させるような先進性を持たせることができれば、ユーザー層の若返りを実現させる目はあったであろう。結局、それができなかったことがクラウンの死期を早めた。

ド派手な「若返り路線」が裏目に

 旧型に相当する14世代でトヨタはユーザー層若返りの賭けに出た。「とにかく目立つようにしろ」という豊田章男社長の号令で、文字通りド派手なフェイスを持つクルマに仕立て、ユーザー層のチェンジを狙ったのだ。しかし、結果論ではあるが、これはうまい手ではなかった。

 筆者は登場翌年の春に14世代モデルで東京と宮城のトヨタ自動車東日本大衡工場の間を途中で寄り道しながら旅したことがある。そのときの印象は作りといい走り味といい、やたらと薄っぺらくなったというもの。ド派手なデザインでガーンと曲がる分かりやすさはあるが、クラウンの持ち味である性能を表に出さないじんわりとした味わいという点では、売れなかったが完成度は高かった13世代より後退した感があった。

 その14世代モデルのセールスだが、最初は馬鹿売れした。モデルチェンジ翌年の2013年の販売台数は8万台を突破。売れたのならめでたしめでたしである。が、モデルライフ後半になって販売が激減。前述のように2017年には21世紀最少記録を塗り替えてしまった。しかも購買層はほとんど若返らなかった。

 そして現行の15世代。トヨタの新しいクルマ作りのフレームワークであるTNGAの後輪駆動プラットフォームを新採用したのを機にガラリとコンセプトチェンジするいいチャンスだったのだが、ド派手な若作り路線を踏襲。デザイン上は6ライトと呼ばれる、後ドアのさらに後方にも小窓をつけるというクラウン史上初のスタイリングを取った。

 トヨタは15世代のライバルはベンツ「Eクラス」やBMW「5シリーズ」の対抗馬と息巻いていた。確かにベンツ、BMWなどのドイツプレミアムは現在、顧客の嗜好の変化に振り回されてクルマ作りのバランスを崩しているきらいがあり、今が攻め時であることは確かだ。だが、これも実際に乗ってみると、それら悩めるプレミアムカー相手でも顧客を奪えるほどのパワーはなかった。

「レクサスLS」、「レクサスRX」の第1世代モデル、第2世代「レクサスES」、第2世代「センチュリー」などのデザインを手がけ、現在は名古屋造形大学の客員教授を務める内田邦博氏は言う。

「6ライトは難しい。15世代クラウンのリアドアまわりを見ると、ドアガラスを分けるステーとピラーの方向がバラバラで安定感がない。歴史的に6ライトは別に新しい手法ではなく、いいものも数多くあった。だが、こういうバラバラなデザインは元々シボレーなどアメリカ車の大衆車でやっていたこと。

 トヨタ自身のモデルを紐解いても昔の『コロナ5ドア』の6ライトから少しも進歩していない。もう少し良く考えてデザインすべきだった。セダンであっても今も売れているものは売れているし、いいものはいい。クラウンがダメになったのをセダンのせいにしてはいけない」

しがらみを断ち切る「作り変え」は悪くない

 そんなクラウンでも、グローバルモデルの派生車として成立するのならまだ生き延びることはできただろう。大衆車の「カローラ」「ヤリス」は日本仕様と欧州仕様で車幅が異なる。そういう作り変えを低コストでやるのはトヨタの得意分野で、クラウンも海外モデルのナロー版として作れれば、表札代わりのモデルとして細々と存続させることは難しくないものと考えられる。

 レクサスを含むトヨタのセールスを見ると、前輪駆動ベース車が絶好調であるのとは対照的に、後輪駆動モデルは世界的に低調に陥っている。これはクラウンにとっていかにも間が悪かった。

 こうした“諸般の事情”によって事実上消滅するクラウン。前輪駆動ベースの高級SUVとしてその名を残すのは豊田章男社長の一存であるという。果たしてこの鞍替えはうまく行くのだろうか。

「海のものとも山のものともつきませんが、トヨタのDNA的には案外悪い手ではないのではないかと、個人的には思います」

 トヨタ出身で現在は関連会社の経営を手掛けるOBの一人は言う。

「トヨタはクルマ作りそのものについては“こうでなければいけない”という強い信念を持っている会社ではありません。むしろ、ユーザーがこんなものを欲しがっているみたいだというような話に敏感で、それに応じてコロコロと変わるのが身上です。

 ところが長くビジネスをやる中でクラウンみたいな伝統的なモデルが出来ると、前例に何となく縛られて持ち味の変わり身が発揮できなくなる。クラウンをSUVにするというのは、ブランドを利用しながらしがらみを断ち切ってまったく新しいことをやれる可能性がある。このままダラダラと義務感でセダンを作り続けるよりはよっぽどいいと思う」

クラウンSUVは「広大なリムジン」?

 そのクラウンのSUVバージョンがどのようなクルマになるかは不明だが、中日新聞の報道どおり3列シートSUV「ハイランダー」をベースとするのであれば、2.85mというロングホイールベースの背高ボディを生かし、2列シートの広大なリムジンSUVにするのではないかというのが筆者の想像だ。クラウンという名前は残るが、海外にも販路を求めるということなので、全幅1.8mはもはや継承されないだろう。

 問題は大衆車をベースに高級車を作れるかどうかだが、これはさして心配なさそう。

 TNGAアーキテクチャは改設計についてかなりの融通が利くように作られているようで、ハイランダーのプラットフォーム「GA-K」も下は大衆セダンの「カムリ」から上は高級セダンの「レクサスES」まで、幅広く採用実績がある。トヨタの開発力をもってすれば遮音をちょっと頑張り、足回りの可動部品に良いものを使えば、高級SUVに仕立てることはたやすいことだろう。

 課題は中国を除く海外ではほとんど無名のクラウンの名を冠した高級SUVを、新たなトップオブトヨタとしてどう特徴づけるかということにある。

 トヨタは元来、クルマを飾るのは得意なメーカーだ。世の中では高級といえばシックと捉えられがちであるが、たとえばアメリカのストレッチリムジンやロールスロイスのようなプレステージクラスでは、悪趣味というくらいきらびやかに内装を飾り立てるのが常。トヨタは三河の企業だが、尾張名古屋に隣接しているからか、そういう飾り立てについては非凡なものを持ち合わせている。

「露骨に出し過ぎるとそれはそれで失敗するかもしれませんが、変に世の中で言われているような趣味の良さに引っ張られると、トヨタDNA的には特徴を失って没個性的になってしまうのではないかと思います。

 おそらくクラウンSUVは確固たる世界戦略の一環で生まれるわけではなく、クラウンの名を消さないために作られ、エクスキューズとして海外販売を標榜しているだけのように思います。ならばいっそ、自分たちの思うようにやってみればいい。

 ミニバンの『アルファード』のように、アジア圏で超高級車扱いされるような日本発のモデルに化ける可能性だって決してゼロではないのですから」(前出のトヨタOB)

 世界の自動車業界が激変の渦中にある中、勝ち組への道を模索するトヨタ。クラウンのSUV化が吉と出るのか凶と出るのか、その行方が興味深い。

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