高齢者など災害時の避難行動要支援者ごとに自治体が作成する「個別支援計画」について、熊本県内45市町村の作成が全国より高い割合で進んでいることが20日、県のまとめで分かった。2016年の熊本地震や今年7月の豪雨災害による危機意識の高まりが背景にあるとみられる。
7月の豪雨後、県が初めて集計した。対象者全員分を作成したのが人吉、宇土、玉東、南関、和水、小国、芦北、津奈木、水上、球磨の10市町村で、残り35市町村が一部作成。内閣府によると、要支援者名簿を策定済みの全国1720市町村の作成状況(19年6月時点)は、全部作成が12%(県内22%)、一部作成が50%(同78%)、作成なしが38%(同0%)だった。
県地域支え合い支援室の西村徹室長は「県内は熊本地震や過去にも豪雨、台風など災害が多く、危機意識が高まったのではないか」と分析。さらに地域のつながりが強い郡部では、親戚や民生委員など支援者が決めやすい側面もあるという。
一方、対象者が多く、地縁が薄い都市部では計画作成が難しく、計画ができても実効性が薄いなどの課題も横たわるという。
熊本市の要支援者名簿は県内最多の約3万8千人。このうち個人情報を共有して計画作成に同意した人と、名簿とは別に支援計画の要請のあった人を合わせて約9700人が個別計画の作成対象だ。約9割は計画上の支援者は決まっているが、「具体的な避難経路や施設まで詰められていない例も多く、完成度には濃淡がある」と市危機管理防災室の西岡和男・首席審議員。
郡部に比べて地域交流や民生委員らとのつながりが希薄で、そもそも会って協議することが難しい人も多い。前提となる名簿情報の共有に対する同意が取れないケースも多く、「マンションでの独居や近所付き合いがなく、要支援者だと知られたくないという人も多い」という。
政府は来春にも災害対策基本法を改正し、計画作成を義務付ける方針。県はこれを見据え、全対象者の計画作成を目指す。「民生委員や自治会だけでなく、地域の中の多様な福祉資源を生かし、要支援者との間を行政がつなぐ取り組みを促したい」としている。(堀江利雅)
◆地域の「共助力」重要に
県内で、全国よりも高い割合で作成が進む災害弱者の「個別支援計画」だが、災害時に計画通りに運用できるかどうか、実効性の課題も多い。県内外では、災害時に命を守る地域の「共助力」を高めようと実動訓練や支援者の役割確認などを進める自治体もある。
宇城市は年1回、行政区ごとの総合防災訓練の中で、個別支援計画の対象者で支援の優先順位が高い住民の自宅を民生委員と消防団、区長が一緒に巡回。避難先や避難経路の把握に努めている。
過去の高潮や台風などで、独居の高齢者や障害者らは地域でも把握されていなかったことが教訓となった。市社会福祉課は「救助の最前線を担う消防団と要支援者の事情を知る民生委員が普段から当事者と顔が見える関係を築き、情報を共有する仕組みが求められる」と強調する。
球磨村では7月の豪雨で、特別養護老人ホーム「千寿園」の入所者14人を含む計25人が犠牲になったが、その中に個別支援計画の対象者はいなかったとみられる。
村全体の高齢化率が高く要支援者も多いが、支援計画が作成された対象者の犠牲を回避できたのは、過去の水害の経験や地縁、血縁の強い地域性が生かされた面が大きかったという。村住民福祉課は「親族が事前に避難させたり、消防団が積極的に要支援者を回ったりした例を多く聞く」と説明する。
大分県別府市は2016年の熊本地震以降、障害者の個別支援計画に力を入れ、内閣府などが参考にするほどだ。地域で起こり得る災害の危険度や支援の必要性が高い人から優先順位を付け、普段から当事者と関わる福祉施設職員らと自治会、家族が協議と訓練を重ねた。行政の防災情報、福祉職員の専門知識、地域の特性を徹底的に共有しているのが特徴だ。
国の中央防災会議防災対策実行会議メンバーも務める村野淳子・同市防災推進専門委員は「ただ作成率を上げればいいのではなく、一人一人が確実に助かる方法を明記しなければ完成とは言えない」と強調。「行政は福祉や医療、介護などの地域資源の発掘や、当事者、地域団体をつなぐ役割を担い、それぞれの立場で自覚を持って計画に関わることを促さなければならない」と話す。(堀江利雅)
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